リアル店舗を救う企業として注目を集めるバニッシュ・スタンダード(東京・渋谷)。同社は店舗スタッフによるコーディネート投稿など、「オンライン接客」を可能にするサービス「スタッフスタート」を展開し、2100以上のブランドが導入、年間経済効果で1500億円を突破している。同社事業の核心はどこにあるのか。著名コンサルタントの大前研一氏と、バニッシュ・スタンダードCEO/代表取締役の小野里寧晃が対談した。
僕(バニッシュ・スタンダードCEO/代表取締役の小野里寧晃)は、異業種を含めて経営者同士で交流する機会も多いのですが、大大先輩であり、とてもかわいがっていただいているのが、世界的な経営コンサルタントで、現在ビジネス・ブレークスルー大学学長を務める大前研一さん。今回は、リテールの未来予想を聞かせていただきました。
小野里寧晃(以下、小野里) 大前さんが主宰する新しい時代のビジネスモデル創造を志す企業経営者のネットワーク「向研会」で講演させていただいたのが最初のご縁でしたね。その後、経営者仲間や先輩がたくさんできたのですが、大前さんがことあるごとにバニッシュ・スタンダードを褒めてくださっていると聞いて、うれしく思っています。
大前研一氏(以下、大前) 本当にいい会社だし、「日本一のビジネスモデル」だと思っている。僕は明治時代にさかのぼっていろいろな経営者を研究してきたが、小野里くんの事業がすごく意義があると思うのは、「怒り」というものが原点にあるから。特に店舗スタッフの方々はパートやアルバイトも多く、給料が逆立ちしても上がらないところがほとんど。美容関係も同様です。
政府は「給料を上げろ」と言って、給料を上げた会社には税制優遇や公共事業の受注の優遇をするとしているが、そんなおかしなやり方はない。一律に給料を上げろなんて、資本主義を壊すようなものだから。それ以上に、生産性が上がらないと給料は上げられないし、生産性が上がって人が余ったら辞めて外に出てもいいようにしなければならないのに、「クビにしないでそのまま雇い続けろ」と言ったら企業は儲からない。儲からないコストの高い会社に公共事業を発注するのは、国民に対する裏切りになる。こんなの、新資本主義でもなんでもないでしょう。
小野里 おっしゃる通り、アパレルや小売業界では、若い人だと手取り月20万円に届かない方も多いんですよね。長時間労働も当たり前ですし。
大前 それが、バニッシュ・スタンダードの「スタッフスタート」を使うと、本人の努力次第で自分の稼ぎを上げることができる。怒りに対して、解決策を出した。そしてこの仕組みには、ものすごく愛を感じます。素晴らしいと思う。
中国では個人インフルエンサーが自宅などから発信して、あっという間に大量にモノを売ったり大金を稼いだりしていますが、スタッフスタートは、お店を拠点に店舗スタッフが発信をしている。本人の知恵と努力に比例して収入を増やすことができるモデルは、すでに生命保険などの営業職にはあるし、社長以上の稼ぎをもらっている人もいる。でも、デジタルを活用してアパレルや小売りの店舗というある種、閉じ込められた場所から収入が増やせるというのは前例がありません。
小野里 スタッフの投稿を通じて、どれだけ売り上げに貢献しているかを可視化しました。そこで個人、あるいは店舗に対して、インセンティブをつけたり、評価制度につなげるように働きかけたりもしてきました。
大前 僕はビジネス・ブレークスルー大学や、オンラインでMBAを取得できる大学院を経営していて、今でいうリカレント教育をしている。例えば、事情があって高校までしか通えなかったけどすごく優秀な女性は、現場を知らなくてもフロアマネジャーになってしまう大卒の男性の下で冷遇されることが多々ある。僕は「寝首をかけ!」とハッパをかけている。オンラインで卒業資格を取れたら出世もできるようになるし、そういう報告を受けると、気持ちが良くて仕方ない。
「あなたの努力で人生を変えていける」。これが、バニッシュの事業の他との一番の違いだし、この観点から事業を組み立てた人は日本には今までいませんよ。
著者/小野里 寧晃(おのざと やすあき)
本体価格/1700円(税別)
発売日/2023年3月25日
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「ロケーションを克服できるすごい仕掛けだ」
大前 でも、あんまり慢心してはいけない。愛をいつまで持ち続けられるかどうかが、この事業の成長や継続性に関わってくる。当初は売り上げの3~5%などとインセンティブを規定していたとしても、店舗スタッフがかなり稼ぐようになっていくと、だんだん削り始める会社が出てくる。それは良くない。なまけていたらそういうオーナーや店長が生まれてしまいます。VTuber・バーチャルライバー集団「にじさんじ」を打ち出すエニーカラーなどを見ても分かるけど、とことん人気が出て稼ぐやつは稼いでいい。
アパレルの人々はロケーション(立地)がすべてだと思ってきた時間が長く、高コストだけど好ロケーションの店舗の売り上げが良いのが当たり前だった。けれど、バニッシュの登場で広島とか山形とか、東京よりも圧倒的に客数が少ない店舗に所属するスタッフだったとしても、努力や仕掛け、才能次第で日本一の売り上げを獲得することができるようになる。これはアパレルや商業施設、不動産の理屈、つまりロケーション・イズ・エブリシング(立地がすべて)の考え方を根本から覆すもの。これはうれしいことだと思う。
地方の店舗では客数が少ないぶん、時間があるからこそ積極的に取り組めるという面もある。お客さまは全国にいるというわけです。
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