試合がない日も思わず足を運びたくなる──。そんな野球場のある新しい街が、北海道に誕生する。北海道日本ハムファイターズのホーム球場として使われ、期待される経済効果は初年度だけで約1634億円。興味深いのは、集う企業の顔ぶれとその取り組みだ。各社はマーケティングの実験場として新球場をとらえ、新たな消費者との接点づくりに挑む。

野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中核施設とする「北海道ボールパークFビレッジ」が、いよいよ北海道で開業する
野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中核施設とする「北海道ボールパークFビレッジ」が、いよいよ北海道で開業する

 総工費約600億円をかけた巨大施設「北海道ボールパークFビレッジ」(以下、Fビレッジ)が2023年3月30日、北海道北広島市で開業する。目玉は、野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」(以下、エスコンフィールド)だ。日本初となる開閉式屋根の付いた天然芝の野球場で、北海道日本ハムファイターズの新しい本拠地として使われる。3月14日にはこけら落としのオープン戦が行われ、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の期間中で野球への関心が高まるタイミングと重なったことも手伝い、現地には多くのファンが早速駆け付け大いににぎわった。

 Fビレッジの特徴は、エスコンフィールドの周囲を、グランピング棟やヴィラ棟といった宿泊施設、通年で野菜を育てる農園、認定こども園などがぐるりと囲む点にある。東京ドームの約6倍となる敷地面積約32ヘクタールという広大なエリアは樹木や池といった自然環境が充実しており、まるで公園テーマパークのような趣だ。エスコンフィールド内を含む各施設は多くが通年営業している。Fビレッジには365日24時間自由に足を踏み入れられるし、試合がない日であればエスコンフィールド内にも無料で入れる。

目指したのは、試合がない日にコーヒー1杯飲みに来たくなる野球場

約32ヘクタールの敷地には緑や池が多く、いわば公園のようなテーマパークとなっている
約32ヘクタールの敷地には緑や池が多く、いわば公園のようなテーマパークとなっている

 「野球が好きな人にとってもそうでない人にとっても、365日居心地よく過ごせる空間を目指した。子育て中の父親・母親が、子供を連れて思わずコーヒー1杯を飲みたくて来てしまうような野球場のある街。それがFビレッジだ」。構想をゼロベースで練り上げ完成にこぎ着けた仕掛け人である、ファイターズ スポーツ&エンターテイメント取締役事業統轄本部長の前沢賢氏はこう話す。

 多くの野球場は、あくまで野球の試合がある日に観戦を目的に訪れることを前提としており、試合が開催されていない日に積極的に行きたくなるような要素が弱かった。「人口減少局面の現代では競技者人口を増やすのは非常に難しい。野球に全く興味がない人々に一つのエンターテインメントとして捉えてもらい、観戦者人口増加を目指したい。だから野球以外の目的でFビレッジに来て、ついでに野球を見てくれれば良い。そう割り切って細部まで作り込んだ」(前沢氏)。

 こうしたことから、エスコンフィールドの内外に誘致した企業の顔ぶれは、ユニークだ。アウトドアブランド「THE NORTH FACE」を展開するゴールドウイン、農機大手クボタ、長野県でクラフトビール醸造を手掛けるヤッホーブルーイング、全国17カ所に子ども向け施設を運営するボーネルンド、ロードバイク自転車を得意とするスペシャライズド、ベーカリー「TruffleBAKERY」のドレステーブルなど──。従来の事業では野球に直接的な縁が薄く、今回初めて本格的に関与することになった企業ばかりだ。

ファイターズ スポーツ&エンターテイメント取締役事業統轄本部長の前沢賢氏
ファイターズ スポーツ&エンターテイメント取締役事業統轄本部長の前沢賢氏

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