「日本史」は企業の広報担当者にとって、プレスリリースの書き方やトラブルが発生した際の危機対応などが学べる最高の教材。誰もが知る有名事件なら事案の背景説明は不要。事の一部始終も明かですから、本来どう対応すべきであったかはプロの広報ならすぐ分かります。このコラムでは、現役の企業広報が書いた書籍『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』より一部引用して、日本史に登場する有名な出来事を題材に広報術を学びます。今回の教材は「金印の紛失」です。
江戸時代、現在の福岡市・博多湾にある志賀島の畑から突然発見された「金印」(国宝)のことはご存じですね。「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」と刻まれた金印、ただならぬ雰囲気を感じます。中国の歴史書『後漢書』には、建武中元二年(57年)に光武帝が倭奴(わのなの)国王に「印綬(いんじゅ)」を与えたことが記されており、この「印」が志賀島で見つかった金印だと考えられています。
ところで、そんな大事な金印がなぜ突如として江戸時代に畑の真ん中から、しかも志賀島という小さな島で発見されたのかは大いなる謎です。とにかく言えるのは、金印は何らかの原因で人々から忘れ去られ、畑の中で長い間眠り続けていたということです。では、その忘れ去られる原因とは何なのか。権力争い、盗賊、戦争……はっきりしたことは分かっていません。そこでこのような空想を働かせてみました。
「もしかして誰かが無くしてしまったのではないか」
これは時の行政からするととんでもない大失態で、現在なら連日マスコミの総攻撃に遭う危機的状況でしょう。もし、金印を紛失してしまったのだとすると、広報なら危機対応として次のようなプレスリリースを出したのではないでしょうか。
報道関係者各位
倭奴国
「金印」紛失に関してご報告
倭奴国では、漢皇帝より倭奴国を承認している証しとして「金印」を授かっています。金印は常に厳重に管理していましたが、先日保管庫を確認したところ、紛失していたことが確認されました。我が国として事態を非常に重く受け止めており、国民の皆様および関係者の皆様にご心配とご迷惑をおかけしたことをおわびいたします。
管理を担当していた行政官によると「保管している箱をある日開けたら無くなっていた」とのことで、警察への届け出を済ませて、現在捜索中です。倭奴国としてはこの事態を重く捉え、行政官の島流し処分を発表するとともに、以下の通り経緯の説明と再発防止に向けた取り組みを行うことをお知らせいたします。
【経緯】去る3月1日、金印保管庫を担当の行政官らが定期検査したところ、箱の中にあるべき金印が無くなっていました。
【原因】何者かに持ち去られた可能性が高いものの、うっかり捨ててしまったなどの可能性もあり、今のところ原因を特定できていません。
【影響】今後漢政府との関係悪化が予想されます。最悪の場合、漢への出入り禁止となる可能性があります。
【対応策】漢政府に報告、謝罪を行います。今後金印のような重要な物の管理はセキュリティーを強化し、併せて担当行政官の研修を行うなどして、再発防止に取り組んでまいります。
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『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』
広報・PR関係者に大反響! 重版4刷
連載「風雲! 広報の日常と非日常」でおなじみの現役広報パーソン・鈴木正義氏による初の著書。広報・PR関係者を中心にSNSでも大きな話題に!「プレスリリース」を武器に誰もが知る日本の歴史的大事件を報道発表するとこうなった! 情報を適切に発信・拡散する広報テクニックが楽しく学べるのはもちろん、日本史の新しい側面にも光を当てた抱腹絶倒の42エピソード。監修者には歴史コメンテーターで東進ハイスクールのカリスマ日本史講師として知られる金谷俊一郎氏を迎え、単なるフィクションに終わらせない歴史本としても説得力のある内容で構成しました。
あの時代にこんなスゴ腕の広報がいたら、きっと日本の歴史は変わっていたに違いない……。
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