伝統的な大企業から上場ベンチャーまで、幅広い業種・規模の企業がCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)活動に取り組み始めている。オープンイノベーションの重要性が高まる中、業務提携にとどまらずスタートアップへの投資にまで踏み切った企業の現状と今後の展望は? CVCに取り組む企業が集まる日本最大の業界コミュニティー「FIRST CVC」の代表、山田一慶氏が「Japan CVC Survey 2022」のデータを基に解説する。
2022年9月28日、三菱地所が展開する東京駅そばのスタートアップ支援施設「グローバルビジネスハブ東京」のホールには、約100社のCVC担当者150人超が集結した。筆者が事務局を務める「FIRST CVC」が開いたスタートアップ投資に関する勉強会に参加するためだ。
集まった企業は、数兆円の売り上げと長い歴史を持つ大企業や、ここ数年で上場した急成長ベンチャーなど多彩。業界もエネルギーやインフラ、銀行、物流といったBtoB(企業向け)から、IT、ファッション、化粧品といったBtoC(消費者向け)まで、幅広くそろった。実は、その場の半数以上がここ数年で新たにスタートアップ投資、いわゆるCVC活動を始めた企業だ。
参加した担当者のバックグラウンドも、実に多彩である。新規事業・経営企画・M&Aなどの部署に所属する人はもちろん、CVC部門新設時に応募して配属された人や、ベンチャーキャピタルや他社のCVCから転職してきた人、自身が以前に起業した経験があり転職でCVCに入社した人など、多くの企業にとって新しい部署機能だからこそ、雰囲気の異なる人々が混じり合う場となった。
この熱気が示すように、オープンイノベーションという言葉が浸透してスタートアップとの協業を経営戦略に取り入れる企業が増えたことで、16年ごろから新たにCVC活動へ取り組む企業が急増している。新型コロナウイルス感染症による影響のど真ん中の21年には、なんとCVCの新規設立が過去最多を記録。15年までの設立がわずか17社だった一方、それ以降に活動を始めた企業は77社となっており、CVCの数として実に5.5倍に増加したことになる。
近年CVCを設立した企業の例としては、電動キックスケーターのLuup(東京・千代田)との資本業務提携を発表したファミリーマートや、大丸・松坂屋を運営するJ.フロントリテイリング、海運大手の商船三井などがある。個々の会社名を聞いても幅広い業界・業種がCVCに取り組んでいる様子がうかがい知れるだろう。
なぜ、これほどCVC活動を始める企業が増えているのか。狙いや戦略は何か。その活動は成功しているのか、それともてこずっているのか。
CVCは各社の重要な戦略プロジェクトであるため、これまで詳細な状況が外部に明かされることはなかった。しかし、今回FIRST CVCでは、CVC110社の大規模サーベイ「Japan CVC Survey 2022」 ▼関連リンク:FIRST CVC を23年2月に発表し、日本のCVC活動の全貌を初めて明らかにした。本稿では、この調査結果を基にCVC活動が広がる背景と、その現状評価についてお伝えする。
CVC活動は「好調」、今後の投資意欲は?
今回の調査で明らかになったことは、まず大半のCVC活動は「好調」だということだ。それも、開始して間もない企業だけではなく、長く運営する組織も含めて全体の77%が自社のCVC活動の状況を肯定的に評価している。
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