※日経エンタテインメント! 2022年10月号の記事を再構成
配信での展開を背景に、30分未満のショートドラマが急増している昨今。なかでも、意欲的な作品作りでヒット作を数多く生み出しているのがテレビ東京。今期も『夫を社会的に抹殺する5つの方法』がTVerで好結果を残すなど大きな話題となっている(縦読みマンガ発ドラマ好調 『夫を社会的に抹殺する5つの方法』)。ここでは、そのユニークな取り組みを紹介した、昨年の『日経エンタテインメント!』10月号の記事を改めて公開する。
近年、各局でドラマ枠が増加傾向にあるなか、インパクトのある波及の仕方を見せる作品が出てきた。サラリーマンが週末に1泊2日の車中泊をしながら、“絶メシ”(=絶滅しそうなグルメ)を求める『絶メシロード』(2020年1月期、主演:濱津隆之)は、アジア最大級の広告祭「スパイクスアジア」で銀賞を受賞するなど、海外でも評価された。バッティングセンターを舞台に、悩める女性たちを“野球論”で例えた人生論で導く『八月は夜のバッティングセンターで。』(21年7月期、主演:関水渚、仲村トオル)は、DAZNが初めてドラマ配信を決めた作品。愛する“チェンメシ”(=チェーン店グルメ)を語るポッドキャストを始めることで、主人公が成長していく『お耳に合いましたら。』(21年7月期、主演:伊藤万理華)は、Filmarksの「2021年夏ドラマ満足度ランキング」で1位を獲得した。
これらは、テレビ東京の深夜枠で誕生した作品だ。4作品とも、広告業界出身の畑中翔太氏と、ドラマ制作に携わるようになったのはまだ4年程というテレビ東京プロデューサーの寺原洋平氏のタッグによるもの。どのように作品を作っているのか。
――直近だと、プラモデルをテーマにした『量産型リコ‐プラモ女子の人生組み立て記‐』が8話連続でTwitterのトレンド入りするなど話題になりました。
寺原 テレビ東京では、サウナが題材の『サ道』(19年7月期)や、『ひとりキャンプで食って寝る』(19年10月期)など、ライフスタイル系のドラマは定番人気で、数多く作っています。畑中さんとは『絶メシロード』で出会いましたが、次にご一緒した『八月は夜のバッティングセンターで。』(通称ハチナイ)ではバッティングセンターと悩みを抱える女性、『お耳に合いましたら。』ではチェンメシのポッドキャストと入社3年目女子の成長記といったように、題材と登場人物の青春や人生を掛け合わせることにこだわってきて。畑中さんが生み出したこのメソッドが磨かれてきたので、『量産型リコ』でもカチっとハマりました。
畑中 最初に寺原さんから「プラモデルでドラマを」と聞いたとき、めちゃくちゃ面白くなりそうだと思いました。カルチャーとかホビーのように、個人が集中してのめり込むものを、多くの人が見るドラマに置き換えるのは相反するように見えますが、実は深夜ドラマと相性がいいと感じていて。思いが強いものって伝染するので、プラモデルは可能性があるなと。でも趣味の領域だけにはしたくないので、人間模様の真ん中にプラモデルがあるという構造にしました。それで“ホビー・ヒューマンドラマ”と謳ったんですけど。
題材のキーワードを物語に
寺原 『ハチナイ』のときは野球の「中継ぎ」とかでしたが、24分の1とか、対象年齢とか、プラモデルならではの概念からエピソードを作れないかと考えるのは、このチームならではかなと。
畑中 第1話で量産型ザクを取り上げているんですが、それは僕が生まれて初めて買ったプラモデルだったから。企画はサブタイトルにある「人生組み立て記」から走っていたんです。主人公が没個性を指摘されて、「私って量産型人間なのかな?」と自問自答する場面があるんですが、ストーリーを掘るうちに、寺原さんから「量産型って言葉、強いよね」という話があって。没個性を肯定したい意図があったから、タイトルにするのは迷いましたが、プラモデルってみんな同じものを買っている。それが、塗る色で個性が出たり、ヘタクソに仕上がったり。作った瞬間に自分だけのものになって、愛着が湧いて、人生もそんなものじゃないかなっていうのをメッセージにしようとなりました。プラモデルが人生の円に重なる部分を探しながら全10話を作った感じです。
寺原 畑中さんのドラマ企画には、共通して「深夜のサプリメント」というコンセプトがあって、好きなことを追求する愛や優しさがある。だからその界隈のファンは応援してくれるし、広がっていくんだなと感じています。
畑中 僕は追体験ができるドラマを作りたいと思っていて。主人公と同じプラモデルが作れるとか、同じ車中泊スポットに泊まれるとか。あとは個に刺さるドラマ。『お耳に』の第1話のチェンメシが、松屋のカレギュウなんです。王道は吉野家の牛丼ですが、僕は松屋が好きで、同じく松屋派の脚本担当のマンボウやしろさんが「松屋と言えばカレギュウ」と言っていて。それを生かして偏愛を突き詰めた内容にしたら、翌日カレギュウの写真がたくさんTWitterに上がってたんですよ(笑)。別に全員が求めるところに当てなくても、個に深く刺されば楽しんでもらえる時代なんだと思います。
カギは「ストーリーファースト」であること
――彼らの手掛ける作品は、視聴者に受け入れられているだけでなく、スポンサー企業からの支持が高い。実は『サ道』や『絶メシロード』放送以降は外部からのコラボレーションの提案が来るようになり、3作は企業とタッグを組んで作っている。ただ、旧来のタイアップドラマとは中身が違う。
寺原 『ハチナイ』では、スマートフォンアプリを展開するアカツキさんと、『お耳に』ではオーディオストリーミングサービスのSpotifyさんと組んでいます。『量産型リコ』も、バンダイスピリッツさんからお声を掛けてもらったのがきっかけです。我々としても、エンタテインメント業界だけで企画開発をしていると、どうしても同じような方向に収斂(しゅうれん)されていくことに課題感を持っていました。業界外の方からコラボレーションのご提案をいただくと新鮮なものが多くて。最近、この流れについて「企画開発のオープンイノベーションだね」と、畑中さんと話しています。
――企業とのコラボレーションのきっかけになった『絶メシロード』はどんなところからスタートしたんですか?
寺原 畑中さんが、古い個人飲食店に光を当てる地域創生プロジェクトとして、「絶メシリスト」というキャンペーンを作っていました。その取り組みを全国に広げるために「ドラマにしたい」という提案があったんです。僕は最初、「うわ、気取ったCMの人が来るのか」とか、「シティプロモーションがドラマになるわけがない」と思っていたんですが(笑)、話すうちに「いいな」とすぐに納得しまして。企画書を作ったら、中国のbilibili動画からも「面白い」と言われて、制作することになりました。畑中さんの提案の結果、テレビ局にはなかった新しい切り口が見つかったというか。僕らだと、プロモーションというとCMやプレイスメント、インフォマーシャルなどを発想するんですけど、ストーリーや尺などドラマ特有の制限の中でも、手を抜かずに再解釈し直すと、融合してちゃんと温もりのあるものに変換できることが分かったのは大きな発見でした。
畑中 ソフトの部分での“ヒューマンドラマ”には『絶メシロード』のときからこだわっていますが、外側のマーケティングの部分も結構綿密に考えていて。放送の20年頃はYouTubeとかでもジワジワと車中泊ブームが来ていたんです。加えて、『孤独のグルメ』に代表されるグルメドラマと、町おこしという地域創生の側面。それらを掛け算すると、ドラマ開始の時点で、すでにファンや協力者がいるような感じになる。『絶メシロード』のときから「この統合的なドラマ開発をフレーム化したい」と考えていました。
寺原 企業さんとの組み方がこれまでと違うのは、近年深夜で支持を受けてきたライフスタイル系ドラマに、新たな切り口を提案してもらう感じなんですね。従来の“クライアント”だと、まずは先方の要望が前に出てきて、それがそのままドラマの目的と化してしまう。ところがありがたいことに、ここ数年で僕らの作るドラマがブランディング出来てきたこともあり、世界観を理解された上で、ストーリーファーストであることも尊重していただける。完全に「クリエーティブにおけるパートナー」なんです。これまでとは握手の仕方が全く違う。さらに、この握手のほうがブランド自体が愛されるということに、みなさん気付いてきています。だから、営業局の部員や、代理店の方からも、我々のドラマにおいて「今、何が起きてるんだ?」と問い合わせが多いんです。
畑中 車のCMだと、車内スペースが「広ーい」とか「全部入る!」がほとんどじゃないですか。『絶メシロード』では、車中泊する濱津さんが車内に無造作にごろんと寝転がって、「明日何食べようかな」みたいに考えるシーンがあるんですが、むしろこっちのほうがその車が欲しくなる。そこがドラマの不思議なところ。CMは画で見るけど、ドラマはストーリーやキャラクターで見ているので、深い共感を生めるんだと思います。
寺原 『量産型リコ』では、制作協力していただいているのはバンダイスピリッツさんですが、競合他社になるタミヤさんのミニ四駆を「絶対にやりたい」とリクエストしまして。バンダイスピリッツさんも調整が大変だったと思いますが、それが実現できたんです。「マニアック!」と突っ込まれながらも、結果、プラモを盛り上げるという同じゴールに向かえたのは画期的なんじゃないかと。これも、ドラマ制作の常識や、ルールを知らない僕と畑中さんだったから、いい方向に出たのかもしれないです。これからも、この新しい「テレビ東京らしさ」にご期待ください!
(写真/中村嘉昭)