PayPayマーケティング 第4回

新潟の農産物直売所「ピカリ産直市場 お冨さん」は、コード決済「PayPay」マーケ活用の超巧者だ。PayPayの利点は、一度決済した顧客と継続的にコミュニケーションできる点にある。この特徴を生かすため、まずは利益度外視でインパクト大のキャンペーンを実施することで集客。これまでに約1万人の顧客を集めた。その後、継続したコミュニケーションで再来店を促し、収益につなげている。

新潟市の農産物直売所「ピカリ産直市場 お冨さん」の冨山敦史氏
新潟市の農産物直売所「ピカリ産直市場 お冨さん」の冨山敦史氏

 「1回30~40万円かけて紙のチラシをつくるより、20万円の費用で長期的に関係性を持てる顧客を獲得できるPayPayキャンペーンのほうがよっぽど効率がいい」。新潟で農産物直売所「ピカリ産直市場 お冨さん」を展開する冨山(新潟市)取締役の冨山敦史氏は断言する。

 紙のチラシの制作には大きな手間とコストがかかっていた。載せる目玉商品の選定、チラシのレイアウト作成、さらに目玉商品の仕入れ元には商品の融通を依頼する必要がある。一方でPayPayのキャンペーンは、割引率などのキャンペーン内容を考え、POPを作製して貼るだけで実施できる。産直市場お冨さんでは2019年にPayPayを導入してから、PayPay中心のマーケティングへと移行した。

 また、施策実施の手間が少ないだけでなく、顧客との継続的なコミュニケーションができる点もPayPayの特徴だ。店舗でPayPayを使って決済した顧客や、加盟店がPayPay上で配信できるデジタルスタンプカードの取得者は、加盟店の店舗ページのフォロワーになる。お冨さんのPayPayフォロワーは約1万人(店舗ページに加えスタンプカード作製者を合わせた総数)に達している。単独店舗でここまでのフォロワーを集める店は全国的にも少なく、新潟県内では随一だ。

 このフォロワーという概念はSNSとも近い。だが、SNSは見込み客含めてさまざまな層にフォローされるのに対して、PayPayのフォロワーは、多くがお冨さんで買い物をしたことのある顧客だ。継続的なコミュニケーションによって、再来店につながる可能性は高い。

PayPayのマーケ効果を最大化する3つの工夫

 お冨さんはクーポンを活用したPayPayのキャンペーンの効果を最大化するうえで、3つの工夫を施す。1つ目が「大胆なキャンペーン設計」だ。23年3月20日に開始した第11弾では、「税込み100円以上の買い物で30%還元」というクーポン施策を1カ月間にわたり実施する。100円以上で30%還元。しかも期間中はクーポンの使用は無制限。小規模店舗が売り上げの3割もマーケティングコストに回したら、当然赤字だ。

 しかし、冨山氏に言わせれば「細かいこと言ってもしょうがない。目先のことを考えれば赤字だが、キャンペーンを起爆剤にどう顧客を獲得するかを常に考えている。PayPayキャンペーンの予算は販促宣伝費だと思っているので、どんどん面白いことをやりたい」。

2023年3月20日から開始しているキャンペーン第11弾。「税込み100円以上の買い物で30%還元」は当然赤字。利益以上に狙うこととは
2023年3月20日から開始しているキャンペーン第11弾。「税込み100円以上の買い物で30%還元」は当然赤字。利益以上に狙うこととは

 ただ、やみくもにマーケティングを実施しているわけではない。今回は「常連さんごめんなさい!」と銘打ち、お冨さんで初めて買い物をする新規顧客と、366日以上買い物をしていない離反客を対象としている。「新規顧客獲得」と「離反客の呼び戻し」という目的が明確化している。クーポンの利用対象者を購買情報で絞り込む設計が可能なのも、決済サービスのPayPayならではの特徴だろう。

 期間中に何度でもクーポンを使えるようにすることで、新規顧客が複数回来店し、定着する可能性もある。また、今回は新規顧客に限定しているが、常連客はPayPayキャンペーンが定期的に開催されることを既に知っている状態。どうせ買い物をするならお得なほうでと、店を選んでもらうきっかけになる。冨山氏はPayPayを「非常に効果がある呼び込み材料」と評価する。

過去に最も効果が高かったキャンペーンとは

 ただ、どれだけお得でも、毎回キャンペーン内容が同じでは、顧客は慣れてしまいお得感を感じにくくなる。だからこそ毎回大胆な内容を考え、年3回ほどのペースで実施しているという。「いつも同じような企画内容ではつまらない。お客さまの立場になって考えると、5%とか10%の還元だとあまり響かず、実際1000円以上の購入で10%還元という条件の企画は、集客率が最も低かった。キャンペーンのタイトルを考える際も、少しとがった表現にして、いかにインパクトを出せるかを常に考える」と冨山氏は語る。

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