
ラーメン店チェーン「日高屋」を展開するハイデイ日高が思い切った決断をした。2019年11月から、キャッシュレス化を強化。中でもコード決済「PayPay」は、現金を含む全決済の13%を占める規模になっているという。それに伴い、22年4月には、約18年間続けてきた紙のクーポンを廃止し、PayPayのクーポンを中心に完全にデジタルに移行した。この決断を指揮したのが青野敬成社長だ。その裏側に迫った。
ハイデイ日高のキャッシュレス導入は、極めて険しい道のりだった。現社長の青野氏はキャッシュレス推進派。急速に利用者が広がるPayPayの導入を経営会議で進言したものの、「幹部の9割から反対にあった」と当時を振り返る。
キャッシュレス決済への反対意見が多かった理由は「99%の顧客が現金払いをしており、現状、現金決済で特に問題点はない」という点が1つ。加えて、決済手数料も懸念材料だった。当時、PayPayは決済手数料を無料にしていたが、将来的には有償化されるのは目に見えていた。仮に、売り上げが400億円だとすれば、PayPayの手数料が2%だった場合、全てがキャッシュレス決済だとすると8億円がコストになる。「(現金であれば)不要なコストをかけてまで、キャッシュレス決済を導入するのはどうなのか」という意見が大多数を占めた。
だが、青野氏は決して引かなかった。当時は経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を掲げ、2025年までにキャッシュレス比率を40%にまで高めることを目標としていた。「国がキャッシュレスに向かう中で当社もその流れに乗らなければ、数年後には必ず顧客から『なぜ日高屋は現金しか使えないのか』と言われることになる」という危機感を抱えていたからだ。
青野氏は、アルバイトから社長にまで上り詰めた日高屋一筋の人材だ。日高屋の成長と共に人生を歩んできたからこそ、「日高屋をよりよくしていきたいという使命感があった。何もしなければ、売り上げは下がっていく。仮に今回反対されたとしても、誰かがキャッシュレスを導入しようとしたことが議事録で残る」(青野氏)という覚悟があった。
その説得の論旨は大きく2つ。1つ目は「新規顧客開拓」だ。当時、東京五輪・パラリンピックも見据え、インバウンドの来店客が見込めた。諸外国で進むキャッシュレスに対応することで、外国人観光客も含めて、新たな顧客を呼び込めると考えていた。2つ目が「回転率の向上」。飲食店の売り上げを高めるうえで、客の回転率は非常に重要だ。客が次から次へと入れ替われば、その分、売り上げが見込める。それには店舗運営の効率化が必要だ。
コード決済は、店員のオペレーション負荷の軽減につながる可能性があった。「現金払いに26秒ほどの時間がかかるとすれば、コード決済ではその半分以下の10秒程度で支払いができて、生産性が上がる」(青野氏)からだ。それにより顧客の回転率の向上にもつなげられると考えていた。
こうした理屈で、青野氏は多くの幹部が反対する中、キャッシュレス決済の導入を提案した。社外取締役にも掛け合い、結果的に取締役会でキャッシュレスの導入にこぎつけた。日高屋では現在、PayPayが主なキャッシュレス決済の手段として使われており、現金を含む決済全体の13%を占める規模にまでなっている。
そんな日高屋では、PayPayをどのように活用し、売り上げにつなげているのだろうか。その取り組みとして、「新規顧客開拓」「継続来店」という2つの面での活用法を解説する。
「日高屋=PayPay」という印象付けで集客に貢献
まず、新規顧客開拓の策から見ていこう。導入の検討時はインバウンド顧客の来店を見込んでいた。だが、それも新型コロナウイルス禍によって、見込み薄になった。目を付けたのが、ポイントだ。当時、PayPayでは、100億円還元キャンペーンなどと銘打ち、消費者への訴求を大幅に強化していた。
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