PayPayマーケティング 第1回

コード決済サービス「PayPay」は2018年10月の提供開始後、驚異的なスピードで利用者を増やし、わずか4年で利用者が5000万人を突破。国内ネットサービスの上位10サービスに数えられる規模になっている。利用者拡大につれ、企業からはマーケティングプラットフォームとしての活用に期待がかかる。PayPayをマーケティングプラットフォームとして捉えたとき、どのような特徴があるのだろうか。ニールセンデジタル(東京・港)のデータを分析することで、最大の強みが浮き彫りになった。

コード決済サービス「PayPay」は提供開始からわずか4年で利用者が5000万人を超えた。新たなマーケティングプラットフォームの誕生に期待がかかる
コード決済サービス「PayPay」は提供開始からわずか4年で利用者が5000万人を超えた。新たなマーケティングプラットフォームの誕生に期待がかかる(写真/Shuttertstock)

 「PayPay♪」。サービス名を読み上げる、独特の決済完了音を小売店や飲食店で耳にすることは今や日常茶飯事だ。スマートフォンのアプリに登録したクレジットカードや銀行口座から入金して、画面に表示したバーコードやQRコードで支払うコード決済は、この数年ですっかり市民権を得た。PayPayはその代表格だ。

 諸外国に比べて遅れていたキャッシュレス比率の引き上げを目指し、日本政府が2025年までにキャッシュレス比率を40%へと高めることを目標に掲げ、それに呼応するように18年前後からスマホを活用した新たな決済サービスが続々と誕生。PayPayも18年10月にサービスを開始した。

 黎明(れいめい)期には高還元率を打ち出した熾烈(しれつ)なキャンペーン合戦、利用できる店舗を開拓する営業戦など、事業者間で激しい競争が行われた。PayPayは多額のマーケティング費用を投じ、40%還元などの高還元率を打ち出したキャンペーンで「PayPayはお得」という認識を広めた。その最中、20年に世界を襲った新型コロナウイルス禍が結果的にキャッシュレスサービス普及の追い風となった。

 非接触での決済サービスの需要拡大によって、急速にキャッシュレスサービスの利用が拡大。経済産業省の調査によれば、国内のキャッシュレス比率は18年の24.1%から、21年には32.5%に拡大。うち1.8%をコード決済が担っており、電子マネーの2.0%に迫る規模に成長した。

 各社が多額を投じた市場シェアの争奪戦を勝ち抜き、PayPayの利用者はわずか4年で5000万人を超えた。調査会社ニールセンデジタルのセールス&アナリティクスのアナリティクスマネージャー高木史朗氏は、自社のデータを基に「PayPayは利用者が3000万人に達するまでの早さが類を見ないスピードだ」と説明する。

利用者数トレンド
主要なマーケティングプラットフォームと「PayPay」の利用者拡大の推移を比較すると、PayPayは3000万人に達するまでの期間が非常に短い。出典:ニールセンデジタル「ニールセン モバイル ネットビュー」。各年の7~12月の月間利用者数の平均値。利用者数には、サイトやアプリへ訪問しただけの人を含む
主要なマーケティングプラットフォームと「PayPay」の利用者拡大の推移を比較すると、PayPayは3000万人に達するまでの期間が非常に短い。出典:ニールセンデジタル「ニールセン モバイル ネットビュー」。各年の7~12月の月間利用者数の平均値。利用者数には、サイトやアプリへ訪問しただけの人を含む

国内ネットサービスの上位10位に食い込む規模に

 急速に広まるコード決済の市場の中でも、PayPayのシェアは頭1つ抜けている。ニールセンデジタルのデータ上では、2番手のコード決済サービスと比較して約2倍の利用者を獲得しており、大きく水をあける。その規模は「Instagram」や「Twitter」に次いで多く、国内のネットサービスの上位10サービスに食い込むほどだ。

 利用者拡大に歯止めがかかるのではないかという懸念もあった。それがサービスの加盟店側への有償化だ。PayPayは提供開始当初、加盟店から決済手数料を徴収しないキャンペーンを実施していたが、21年10月に有償化。個人事業主など中規模、小規模の店舗の手数料は店舗管理サービス「PayPayマイストア ライトプラン」(月額1980円)に加盟すると1.6%、それ以外は1.98%となっている。

 この有償化によって加盟店離れを引き起こし、サービスの利用拡大が鈍化するという見立てもあったが、「PayPayの加盟店は約400万になっている」とPayPay(東京・港)マーチャント戦略本部 サービス推進部の奥田航部長は好調さをアピールする。ニールセンのデータ上でも「大きな影響を受けることなく利用者は拡大」(高木氏)するなど、懸念は杞憂(きゆう)に終わっている。

 PayPayが巨大な利用者を抱えるプラットフォームとも言える存在に成長する中、企業が寄せる期待も変化している。「店によっては支払いの過半がPayPayになっている。利用者もスマホ利用者の2人に1人が使う規模になる中で、加盟店の認識は膨大な利用者を保有しているサービスへと変わり、集客として活用する期待値はかなり高まっている」とPayPayセールスサポート本部営業サポート部の内田翔部長は説明する。

 こうした期待に応え、単なる決済サービスから、集客のプラットフォームへと進化させるため、PayPayは加盟店向けにクーポンやスタンプカードを発行できるサービスなどを開発。徐々に集客に活用できるマーケティング機能を強化させている。現時点では広告サービスなどは展開されておらず、マーケティングプラットフォームとしては発展途上だが、利用者の規模を鑑みると将来的に中核を担う可能性は十分ある。

 では、PayPayとは、マーケティングプラットフォームとしてどのような特徴を持つのだろうか。ニールセンのデータを分析することで強みと弱みが浮き彫りになった。

PayPayの月間利用時間はLINEの20分の1以下

 次表は、1人当たりの月間セッション数、平均利用時間、平均利用日数をPayPayと同規模のマーケティングプラットフォームと比較している。

基本指標
PayPayは同規模のSNSや動画サービスと比較して、利用頻度や利用時間が少ない傾向にある。メディアとしての側面はまだ弱い。出典:ニールセンデジタル「ニールセン モバイル ネットビュー」。22年11月~23年1月の平均値
PayPayは同規模のSNSや動画サービスと比較して、利用頻度や利用時間が少ない傾向にある。メディアとしての側面はまだ弱い。出典:ニールセンデジタル「ニールセン モバイル ネットビュー」。22年11月~23年1月の平均値

 1人当たりのセッション数とはすなわち、利用頻度を指す。日ごろのコミュニケーション手段として使われるLINEは、月間セッション数が約92回と群を抜いている。SNSや「YouTube」はいずれも40回を超えており、LINEほどではないが高頻度で使われている。一方、PayPayは約14回にとどまっている。基本的に支払時に使われるサービスのため、何らかの支払いが発生しなければ、起動されないことがデータからは読み取れる。

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