マーケターのためのSXSWキーワード 第2回

カルチャーやテクノロジーの祭典SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)の初日となる2023年3月10日には、米オープンAIの共同創業者兼社長のグレッグ・ブロックマン氏が登場。サム・アルトマンCEO(最高経営責任者)と共に、同社をけん引する人物の一人だ。司会者との対談形式で同社の対話AI(人工知能)「ChatGPT(チャットGPT)」について語った講演内容のエッセンスをお届けしよう。

米オープンAI社長のグレッグ・ブロックマン氏がSXSW初日の講演に登場した
米オープンAI社長のグレッグ・ブロックマン氏がSXSW初日の講演に登場した

――22年11月にChatGPTをリリースしてから2カ月で1億ユーザーに到達しました。なぜこれほど早期にユーザーを増やすことができたのでしょうか。

 私たちの基本技術は、ほぼ1年前にはできており、新しい技術というわけではなかったのです。結果に整合性を持たせるための改良を加え、考えつく限りシンプルで利用しやすいインターフェースにして、誰でも無料で使えるようにしました。ここで得た最大の収穫は、人々が可能だと考えていたことと、実際に可能だったことの間にギャップがあったことです。技術の最前線を提供し、社会でこれをどう吸収し、ネガティブな要素を減らしていくかを考えることはとても重要だと気付きました。

――なぜ今のタイミングだったのでしょうか。

 少しでも懸念があればやらない、と慎重になるのはいいのですが、公開して3日後に問題があったので止めます、という形にはしたくありませんでした。だから私たちは何カ月もかけて、膨大な量の検証を繰り返してきました。より多くの人に利用してもらえるように、技術を高めてきました。消費者向けのアプリをつくるのは今回が初めてでしたが、チームは頑張ってくれました。

SXSWで最大の会場に多くの聴講者が集まり、会場は満員となった
SXSWで最大の会場に多くの聴講者が集まり、会場は満員となった

――少し過去に話を戻しましょう。あなたがオープンAIに参加するとき、シリコンバレーの高級ホテルで創業メンバーと話したそうですね。どんな話をしたのでしょうか。

 AIを使って未来に向けて何かポジティブなことができないか、という話です。共同創業者であるイーロン(マスク氏)、サム(アルトマン氏)、イリヤ(サツキヴァー氏、オープンAIのチーフサイエンティスト)など主要メンバーがいました。「ラボを立ち上げるには遅すぎるのではないか」「AGI(Artificial General Intelligence、汎用性人工知能)は実現できるのか」といった話をしました。結論は不可能ではない、ということでした。

 指数関数的に成長していく技術の先を見通すことは難しいことです。私は高校を卒業したすぐ後にアラン・チューリング(計算機科学者)が1950年代に発表した論文を読んだことがあります。チューリングは「あなたが問題を解くために機械をプログラムするのは無理であっても、どうすればできるかを学ぶことができる機械があればいい」と述べています。これが私にとって大きな気付きとなりました。

 地球温暖化、気候変動、医療と手の届かないような問題が山積となっています。そうした人間には解決できない問題を、機械が解決してくれるのであれば、そうしたい。2012年に画像認識で大きなブレークスルーがあり、今ではさまざまな場所で利用されています。そうした急激に発展する技術を推し進めたいと考えました。

――会社はどのように運営されていますか。

 私たちは非営利団体としてスタートしました。ミッションが壮大すぎて、AGIをどう達成したらいいのか、分からなかったからです。開発者を何人か雇い、誰も踏み込んだことのない新しい技術について研究し、すべてをオープンソース化するつもりでした。良いスタートを切ったのですが、初期に会社を運営していたイーロンと、どうすれば大きいインパクトを生み出すことができるものなのかを議論しました。

 見えてきた課題のひとつが、規模の問題です。私たちが求める結果を得るためのスーパーコンピューターには、何十億ドルもの資金が必要であると分かりました。あるシリコンバレー投資家に「1億ドルが必要だ」と話すと「非営利団体なのに1億ドル?」と驚かれました。資金は提供してくれたのですが、その10倍は難しいことが分かりました。

 ミッション達成には新しい手段が必要でした。そこで私たちは、会社の構造をカスタムしました。非営利団体の理事会がリミテッドパートナーシップ(共同投資組織)を所有することにしたのです。投資家や株主が得られる利益は一定額として、取締役会の過半数を利害関係のない人にするなど慎重なバランスを取っています。

ブロックマン氏は、米オンライン決済大手のストライプのCTO(最高技術責任者)を務めた後、イーロン・マスク氏らとオープンAIを設立した。CNN出身のジャーナリスト、ローリー・シーガル氏がブロックマン氏にインタビューする形で講演が進んだ
ブロックマン氏は、米オンライン決済大手のストライプのCTO(最高技術責任者)を務めた後、イーロン・マスク氏らとオープンAIを設立した。CNN出身のジャーナリスト、ローリー・シーガル氏がブロックマン氏にインタビューする形で講演が進んだ

――最も興味深く、破壊的なユースケースは何だと思われますか?

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