
経営理念に「イノベーション」を掲げても、社員に響かない――。サンダル・靴の製造や販売などを手掛けるThe SEED(静岡市)の相談に対し、デザインファームのBIOTOPE(東京・目黒)が提案したのは、わずか4日間、計10時間で全く新しい事業プランをつくり上げる過酷なプログラムだった。
BIOTOPEはビジョンを起点にしながら、事業戦略立案と社内組織づくりを両輪にした企業変革を支援している戦略デザインファーム。経営層から現場の社員までを巻き込んだ共創型プロジェクトを得意としている。ここで紹介するのは、BIOTOPEがThe SEEDと取り組んだ共創型イノベーション創発プログラムの事例だ。
The SEEDは1938年に塗りげた製造業からスタートし、サンダル・靴の小売りや輸入卸を手掛けるシードコーポレーション(静岡市)や、フットウエア製品の企画開発や製造を手掛けるダイマツ(同)などを傘下に持つ。商品ブランドとしてオリジナルの「ピュアウォーカー」などや海外インポート・ライセンスブランド、店舗として「NATURAL SHOE STORE(ナチュラルシューストア)」「クロワッサンの店」を展開。売上高は48億5000万円(2022年7月時点)、従業員数は156人(22年12月現在)となっている。
BIOTOPEのビジネスデザイナーである金安塁生氏が「ビジョン経営」を実現する上で重視していることの一つが「脱部門思考」だ。「従来のように、マーケティングなどの限られた部門が顧客の価値を短期的に定義して商品をリリースし、効果検証するといったプロセスでは部分的すぎる。もっと俯瞰(ふかん)的に、ビジョンに基づいて社会や消費者にとっての自社の存在価値を定義し、自社のリソースでできることを見定めることが重要。ビジョンを起点にすることで、外部の企業や消費者、専門家などと協力関係も築きやすくなると考えている」と金安氏は力説する。
ビジョン起点にすることで、事業の多角化もしやすくなるという。例えば、今回のThe SEEDであれば、存在意義を「靴を作っている会社」と狭く捉えるのではなく、長期的なビジョンや社会意義に立って考えると、「足元から人々の生活の豊かさを創出する会社」となる。そうすると、その豊かさは今までの靴を作って売る行為だけで本当に達成できたのかという新たな「問い」が生まれ、新たな事業としてその先を考えることが可能になるというわけだ。
「イノベーション」を掲げても、社員に響かない
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