
長年支持されている商品を作ってきたにもかかわらず、経営に課題を感じている企業は珍しくない。デザインファームのエイトブランディングデザイン(東京・港)に相談した結果、BtoC(消費者向け)商品を作るつもりが、本業のBtoB(企業向け)事業を根本的に見直すことになった老舗薬湯メーカー「健美薬湯」(名古屋市)の事例を紹介する。
「ブランディングは伝言ゲームだ」――。ブランディングデザインを専門とし、100以上のブランド開発の実績があるエイトブランディングデザイン代表の西澤明洋氏はこう説明する。商品の本質に関する情報が人から人へ自然と拡散し、信頼性の高い情報として伝わることで差異化することを目指している。
この「伝言ゲーム」の特性を生かしたリブランディングを行ったのが、温浴施設向け薬湯メーカー・健美薬湯(名古屋市・旧社名はヘルスビューティー)とのプロジェクトだ。22年10月にコーポレートブランドをリニューアルした上で、新たなBtoC商品を開発。23年1月にクラウドファンディング「Makuake」での先行販売を実施し、開始24時間で目標金額の30万円を達成した。23年3月8日時点で達成率は250%を超えている。
健美薬湯の創業は1960年。全国の温浴施設に使われる業務用入浴剤や洗剤・衛生管理剤などの浴室用薬品を製造・販売する薬湯メーカーで、生薬を配合した入浴剤は全国の温浴施設で使われている。BtoB向け入浴剤市場の中でトップシェアを占めている。
健美薬湯の売り上げは毎年8億円前後で推移。先代社長の頃から越えられなかった「10億円の壁」があった。「BtoBの入浴剤市場はニッチな業界である上、温浴施設は年々微減している。しかし、やっていることはあまり変わらず、基本的には温浴施設などの代理店へのルート営業。モノとしても、サービスとしても、なかなか社員は新しい価値を生み出せずにいた。このまま10年続けられるのか、と危機感があった」(健美薬湯社長の松田宗大氏)
対照的にBtoC入浴剤市場は新型コロナウイルス禍の影響もあって増加傾向にあり、松田氏は売り上げを伸ばすためにBtoCの開拓を目指そうと考えた。
むしろBtoBのブランディングが課題だった
「BtoC商品を展開したい」という松田氏の相談に対し、西澤氏は「現場の経営はどう行っているのか」といった基本的な質問を投げかけた。すると、BtoB向け入浴剤市場特有の問題点が明らかになってきた。特に西澤氏が改善の余地を感じたのが、BtoBならではのコミュニケーション不全だった。
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