デザインファームに学ぶ「マーケ思考」 第5回

ふくおかフィナンシャルグループの「みんなの銀行」は、国内初のデジタル専業銀行だ。店舗がなく、通帳、キャッシュカードもない。口座開設から送金、ATMでの入出金など、すべてスマートフォンのアプリのみで完結できるのが特徴。今までにない新しい顧客体験の設計には、デザインファームのアクセンチュア ソングのデザイナーも参画し、銀行の堅牢(けんろう)なシステムの構築とSNSのように感覚的に使える金融サービスの両立を実現した。その裏側には、「銀行らしさからの脱却」という難題に対し、銀行員とデザイナーのバトルがあったという。

「みんなの銀行」のアプリ画面。アプリを立ち上げて最初に表れるのが「Wallet」という普通預金の残高ページ。イラストは世戸ヒロアキ氏が担当している。(画面画像提供/みんなの銀行、以下同)
「みんなの銀行」のアプリ画面。アプリを立ち上げて最初に表れるのが「Wallet」という普通預金の残高ページ。イラストは世戸ヒロアキ氏が担当している。(画面画像提供/みんなの銀行、以下同)

 銀行の主要顧客は、一般的に住宅ローンを組んだり、資産形成を行ったりする40代以降だ。だが、2021年5月にサービスの提供を開始した「みんなの銀行」は、Z世代(1990年代半ばから2010年代前半生まれ)とミレニアル世代を中心としたデジタルネーティブ世代に照準を定め、アプリのみで完結できる金融サービスを提供している。その背景にあるのは、少子高齢化に伴う急速な人口減少という社会課題に加え、フィンテック企業や銀行以外の異業種が金融サービスに参入していることへの危機感だ。

 みんなの銀行の頭取を務める永吉健一氏は、「将来、既存の銀行がなくても困らない、そんな価値観の人が増えている可能性もあるだろう。金融業界の未来を見据え、10年後、銀行の主要顧客となるデジタルネーティブ世代に今、選ばれることが重要。デジタルネーティブ世代にとって価値のあるサービスをつくる必要があると考えた」と話す。

 みんなの銀行の口座開設数は約60万件(23年2月時点)。「その7割が39歳以下で、狙いどおりの顧客を獲得している」と、同行デザイングループリーダーの中村隆俊氏は言う。

手間を感じさせない直感的なデザイン

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