デザインファームに学ぶ「マーケ思考」 第1回

IDEO、グッドパッチ、Takram、アクセンチュア ソング、エイトブランディングデザイン、BIOTOPE……なぜデザインファームがデザイン以外のビジネス領域で存在感を増しているのか。関係者のインタビューや実例から、マーケターがデザインファームから学ぶべき視点や思考法を探る。

 デザインファームとは、デザインを基軸としながら、顧客体験設計やリブランディング、新規事業創出などデザイン以外のビジネス領域も手掛ける企業や組織を指す。米カリフォルニア州パロアルトで創業し、米アップルの初代マウスのデザインを担当したことで知られるIDEO、国内のデザイン会社として初の株式公開を果たしたグッドパッチ、内閣府の地域経済分析サイト「V-RESAS」やメルカリのリブランディングを手掛けたTakram(東京・渋谷)、ブランディングを専門とするエイトブランディングデザイン(東京・港)、“共創型戦略デザインファーム”をうたうBIOTOPE(東京・目黒)など。

 本特集で数々のデザインファームを取材して分かってきたのは、広告や商品パッケージ、ブランドロゴといった表現を手掛けるデザイナーだけの集団ではないということ。ビジネスの専門家やエンジニア、建築家、編集者など異なる専門性を持ったメンバーが集まり、課題解決を図っているのだ。

 ではなぜ、ビジネスの領域でデザインファームの存在感が増しているのか。それには大きく2つの理由がある。

 1つ目はVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代といわれるように、過去のデータや経験則から未来のビジネスを構築していくことが難しくなっていること。そこで感覚や感情など、目に見えないものを捉えて形にすることを得意とするデザイナーの力が求められているのだ。アクセンチュア ソングや、博報堂DYホールディングスグループのIDEOなど、ビジネス課題解決を支援するコンサルティングファームや広告代理店がデザインファームをグループ内に抱えているのはその証左だ。

 2つ目は、消費者が価値を感じる対象が、モノ(機能)からコト(体験)に移行していること。商品やサービス自体の機能で差がつかなくなった上、D2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)の台頭に代表されるように、企業と消費者が直接つながるケースが増えている。そこでは、認知→購入→使用というプロセスを通じてブランドらしい体験を提供し、顧客との強固な関係性を維持することで、リピート購入したり他人に推奨したりするロイヤルカスタマーを増やすことが成長の鍵となる。

 つまり、商品の形状やパッケージだけでなく、販売サイトの使い勝手や広告イメージ、企業理念に至るまで、一貫したブランド体験を設計することが生命線となっているのだ。本特集で登場する、エイトブランディングデザインが担当した温浴施設向け薬湯メーカー・健美薬湯のプロジェクトのように、BtoB企業がBtoC展開についてデザインファームに相談した結果、BtoCだけでなく、BtoBのブランド戦略、そして社名変更まで含めた会社全体のリブランディングに至った例はその象徴といえるだろう。

デザイン思考に“5つの誤解”

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