デザインファームに学ぶ「マーケ思考」 第3回

デジタル領域に強みを持つデザインファームのグッドパッチは、2022年に新規事業創出・既存事業改善につなげる探索型リサーチ「Insight Research(インサイトリサーチ)」の本格的な提供を開始した。同社のデザインリサーチの特徴は、クライアント企業からの依頼に対し、「人」を起点とした目的設定や分析を強みとした提案を実施していることだ。

 Insight Researchは、デザインリサーチャーがクライアントと並走しながら、顧客を深く理解する機会を提供するリサーチの手法だ。リサーチの目的設計から、分析、アクションへの落とし込みまで一貫して実施。クライアント企業の事業立ち上げや新規サービス創造、既存サービス改善に必要なアクションにつなげる。

 課題を抽出し、分析して解決する。そのプロセスはマーケティングリサーチとどこが違うのか。P&Gでマーケティングリサーチャーを務めた経験を持つ、グッドパッチのデザインリサーチャーの米田真依氏は「はっきりと分けられるものではないものの、最初に仮説を立てないところが、グッドパッチのデザインリサーチとマーケティングリサーチの違う点」だと言う。

グッドパッチのデザインリサーチャーの米田真依氏。京都大学経済学部卒業後、パナソニックでの海外グループ会社の経営分析担当、P&Gでのマーケティングリサーチャー職を経て、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーとしてグッドパッチに入社。人材、システム開発、金融関連企業のシステム改善、新規事業企画、新サービスに向けたUXリサーチおよびUXデザインを担当。武蔵野美術大学修士課程CL(クリエイティブリーダーシップ)コース在学中(2023年修了予定)
グッドパッチのデザインリサーチャーの米田真依氏。京都大学経済学部卒業後、パナソニックでの海外グループ会社の経営分析担当、P&Gでのマーケティングリサーチャー職を経て、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーとしてグッドパッチに入社。人材、システム開発、金融関連企業のシステム改善、新規事業企画、新サービスに向けたUXリサーチおよびUXデザインを担当。武蔵野美術大学修士課程CL(クリエイティブリーダーシップ)コース在学中(2023年修了予定)

 社内での検証などを目的に数字的なエビデンスが必要とされれば定量分析を交えることもあるが、その場合もメインとなるのは人を深く理解するための定性調査。「人」起点のデザインリサーチの目的は、本人が意識していない行動や視点について理解したり、その根底にある価値観や考え方を探ったりすることにある。

 そのアプローチはさまざまだ。サービス利用対象者に日記を書くように日々の記録をつけてもらう「日記調査」や写真を撮ってもらう調査、他にも一緒にパンフレットをつくってみるといったワークを行う調査など。顧客やクライアントとリサーチャーが同じ空間で一緒に過ごして行動を観察する「観察調査」を行う場合もある。

Insight Researchのプロセスの例
Insight Researchのプロセスの例

 Insight Researchを本格的に提供するきっかけになったのが、2021年から22年にかけて再生医療関連のプラットフォーム事業などを展開するセルソースと実施した、探究型リサーチだ。

 セルソースが提供するサービスに、血液由来加工受託サービス「PFC-FD」がある。PFC-FDはセルソースが加工方法の特許を取得している技術。膝にある軟骨がすり減ることで生じる症状で痛みを感じている患者に向けた治療に用いられるサービスで、医療機関から預かった患者の血液を加工して再び医療機関に配送している。

 ただ、このサービスは自由診療となるため、医師からは「もうけが目的なのではないかと思われないかと心配で、限られた診療時間内に患者に提案することにためらいの気持ちがある」という声があった。医師が患者に提案しやすい方法はないか。そこでグッドパッチが提案したのは、サービスのエンドユーザーとなる患者も巻き込んだインタビューリサーチだ。

医師だけでなく、患者にも直接インタビュー

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
12
この記事をいいね!する