
日本全国から集めたお菓子の詰め合わせボックスを世界へお届けします――。そんなサブスクリプションサービス「Bokksu(ボックス)」が英語圏に住む個人ユーザーの支持を集めている。米グーグルや楽天を経て、事業を立ち上げたダニー・タン氏に海外で日本の商品を売るための秘訣を聞いた。
ポストに届いた幅約20センチメートルの箱を開けると、中には日本のお菓子がぎっしり。京都のメーカーによる黒ごませんべいや抹茶チョコあられ、奈良の抹茶餅、長野の桜餅、秋田の桜の花びら形クッキーと、本来は各地を旅行して土産店を回らなければ入手できないような、少し珍しいお菓子が入っている。大手メーカーの商品は一部のみ。春は京都の桜、夏はかんきつ系の果物、秋は収穫など、毎月異なるテーマに合わせたお菓子が届く。
ターゲットは、故郷を懐かしむ海外在住の日本人というよりも、英語圏に住む外国人。米国、カナダ、オーストラリア、英国、シンガポールなどを中心に世界約100カ国、累計で100万箱以上を出荷している。
「日本や日本のお菓子が好きな人の他、旅行が好きな人、食と新しい文化を探求するのが好きな人が利用している」と、米ボックスを2015年に立ち上げたダニー・タンCEO(最高経営責任者)は話す。
楽天の勤務で全国のお菓子に出合う
日本との結びつきは子供の頃から。アジア系米国人として育つ中で『ドラゴンボール』『セーラームーン』などのアニメを楽しんでいたほか、生活の中でも車や家電など日の丸メーカーの存在感は高かった。「日本の経済発展は、同じアジア人として誇りに感じた」(タン氏)と言う。
米スタンフォード大に入学すると、社会心理学と日本語を専攻した。08年の卒業後はグーグルに入社してデジタル広告を担当していたが、日本での新たな生活に憧れて来日する。早稲田大学で日本語を勉強し、10年には楽天(現楽天グループ)へ入社した。
楽天ではトラベル事業の部署に配属となった。オフィスには、サンプルとして全国からご当地お菓子が毎週のように集まってきて、試食する。「東京に居ながらにして、日本を旅しているような感覚だった」とタン氏は振り返る。最も刺激的だったのは伊勢名物「赤福」だった。餅が外側にある「大福」は食べたこともあったが、あんこが外側で餅が中にあるという逆パターンが新鮮だった。そうした体験を重ねながら、日本には、その地方でしか販売されていない膨大な数の「ご当地お菓子」が存在していることを知った。
「これほどまで多岐にわたり、パッケージも洗練されたご当地のお菓子が発展している国は他になく、日本独自のもの」とタン氏は話す。伝統を受け継ぎ、長い歴史を築いてきた家族経営のメーカーも多い。例えば、室町時代に創業した和菓子の虎屋(東京・港)は創業から約500年。「(1776年に建国した)米国よりも歴史が長い。京都に行くと、うちなんてまだ創業100年なのでまだまだですよ、というメーカーもある」(タン氏)。その歴史が米国の人々にとって畏敬の対象になり得る。
食べ方から教えるカルチャーガイド
日本には、大手メーカーが製造する魅力的なお菓子も数多くある。それでもあえて、主に地方の中小企業がつくるお菓子を選んでいる理由は、歴史やストーリーが利用者を引き付け、Bokksuの独自性も生み出すからだ。
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