
読者が読みたい記事がストックされ、読みたいタイミングで読める。速報性ではない“待ち”のスタイルこそ、新しいデジタルコミュニケーションツール「note」の真骨頂だ。カルビーが運用する「THE CALBEE」はこの特徴を最大限生かし、社外だけでなく、社内のカルビーファンを増やそうとする。なぜ社内なのか、その運用方法に迫る。
カルビーを代表するポテトチップスのひとつ「ピザポテト」。その誕生秘話が書かれた記事の一部がTwitterに拡散され、約24万件の「いいね」を集めた。注目されたのは、記事の内容ではなく、取材対象者である執行役員研究開発本部長(記事公開時の肩書)の遠藤英三郎氏のプロフィル。「ピザポテト」「堅あげポテト」「ア・ラ・ポテト」の開発者であることが分かり、「あなたが神か」とあがめ奉る事態になった。
こうした商品の開発秘話や会社の歴史、社員の思いなどをつづるのが、カルビーが2021年3月から運用する「note」の公式アカウント「THE CALBEE」だ。noteとは、個人や企業が文章や画像、音声、動画を投稿して共有するメディアプラットフォーム。特に、長文のテキストを投稿しやすく、また思いのこもった長い文章を楽しむ読者が多いのも特徴だ。
カルビーの多くの記事に共通するのは、特集第5回のキリンの事例と同じく、グループ会社を含めた“働く人”にスポットライトを当てる点。例えば、“ミスタープロ野球チップス”と呼ばれる「プロ野球チップス」の担当者に制作秘話を聞くなどする連載「商品秘話」や、製造工場で「かっぱえびせん」の生地を製造するなどの“職人”に話を聞く連載「職人魂-THE CALBEE」、新卒採用を見据えた仕事紹介の連載「NEXT is NOW」など、多彩な切り口で展開する。
消費者とのコミュニケーションにおいて、23年3月時点で、カルビーは企業アカウントとして、Facebook、Twitter、Instagram、LINE、note、YouTubeという多種多様なデジタルコミュニケーションツールをフル活用する。このうち、YouTube以外を、社内外のステークホルダーの窓口を担う「コーポレートコミュニケーション本部広報部」が管轄。ここにnoteの編集部を置いている。
カルビーの広報部は、「利益を集計されないコストセンターである」という認識の下、noteの運用は商品のプロモーションではなく、消費者とのコミュニケーションに注力する。「長期的な視点で、消費者との関係性をつむぐことが主題」と話すのは、コーポレートコミュニケーション本部広報部 WEBコミュニケーション課の佐々木都氏。商品のブランド担当者やマーケティング部などがプロモーション目的で活用するのとは一線を画す、自分たちのことを知ってもらうための“オウンドメディア”という位置づけだ。
「基本的に、SNS(交流サイト)は消費者の場所だと考え、消費者が集まる場所にわれわれがお邪魔をするという考えの下、コミュニケーションを取っている」(佐々木氏)。企業のコミュニケーション手法としては、相手に押して届ける「プッシュ」ではなく、情報の受け手側が、情報を取りたいときに取りにいける「プル」の取り組み。それゆえ、強い圧を感じたり、嫌われたりするリスクが低いのだ。
社外ファンだけを巻き込むのは誤解
noteに期待する役割は、「ファンにもっと好きになってもらう」「企業イメージを刷新する人材の確保」の大きく2点ある。
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