
医療、福祉、作業療法士、エンジニア、塾講師……。職業の統一性はないが、志を共にする約450人が集まる謎のコミュニティーがある。農家と協力し、農業と最新デジタル技術を掛け合わせた新たな事業モデルを考案し、実験する「Metagri(めたぐり)研究所」だ。彼ら、彼女らが日々集うのは、米国発のコミュニティーアプリ「Discord」。さまざまなバックグラウンドの人が「どうすれば農業をアップデートできるか」とアイデアを持ち寄り、議論が活性化している。このコミュニティーは、いかにして誕生したのか? 参加者の熱量を高める運営の極意をひもとく。
「農業の常識を超越する」。そんな思いに共感した異業種の約450人が集結するのが、農業コンサルの農情人(千葉県船橋市)が立ち上げたコミュニティー「Metagri研究所」だ。名称は、Meta(超越)+Agri(農業)から来ている。同コミュニティーは、農業という1次産業に最新デジタル技術を掛け合わせることで、新たなビジネスモデルを構築できないか、という考えの下で運営されている。
そんな最先端な取り組みを行う集まりらしく、コミュニティー運営の母体はDiscordだ。2022年3月に、代表の甲斐雄一郎氏がDiscord上にサーバー(複数人でのテキストメッセージや、音声通話が可能になる機能)を立ち上げると瞬く間にその輪は広がり、23年3月現在、約450人が集結。日々、「どうしたら農業の可能性を広げられるか」と、各自の知見を持ち寄り議論を交わしている。
興味深いのは、集まっている約450人の中にはもちろん農業関係者はいるが、それ以外が圧倒的多数を占めるということだ。代表の甲斐氏のように、以前から「農業×IT」の必要性を感じ、外資系コンサルティングファームを経て現在のビジネスにたどり着いた人もいれば、農業を持続可能なビジネスにしていく方法を模索していきたいと参加を決めた食関係者もいる。他にも、医療、福祉、作業療法士、エンジニア、塾講師と顔ぶれは多彩だ。
彼ら、彼女らの最大の目的は、農業の新たなビジネスモデルを構築することにある。消費者と直接つながり、長期的な関係を構築するにはどうしたらいいか。そして、農家を持続可能なビジネスとしていくために新たな収益源をつくるには――。バックグラウンドの異なる“初対面”の人が集まり、日々こうした課題と向き合いながらさまざまな試みを続けているMetagri研究所の例には、Discordを基盤にしたコミュニティーのつくりかたのヒントがあるはずだ。
リアルとオンライン、双方で消費者と農家がつながる
Metagri研究所の主たる活動目的は、農家と消費者とが直接つながる新しいビジネスモデルの構築だ。流通を介さず、直接消費者とつながり「ファン」になってもらえれば、「顧客」として長期的な関係を築ける可能性もある。
そこでMetagri研究所では、農家のファンになってもらうべく、農作物とNFT(非代替性トークン)を掛け合わせた独自のNFTを発行している。ただし、NFTは投機目的ではなく、"応援の証し"。そのため一時的な支援にとどまらず、コミュニティーの一員となり継続的に農家を支援していくことを、NFT活用の狙いとしている。Discordでは、特定のNFT保有者限定のコミュニティーをつくれることから、Discord上で農家と消費者がつながり続けることができる。
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