
キリンホールディングス(以下、キリン)は、noteの運用開始からまもなく5年目を迎える。自社の取り組みだけでなく、「ビール業界を盛り上げたい」という思いから、note上で競合のビールメーカーとの対談記事を掲載するなど、常識にとらわれないさまざまなコンテンツを提供。そんなnoteの運用は、わずか1人の担当者が行っている。同担当者が「自由曲」「課題曲」と呼ぶnoteで配信するコンテンツの出し分け方や、他のSNSとの役割の違い、noteでPV(ページビュー)数を伸ばすコツなど、キリンのnote活用術のすべてを明らかにする。
「キリンで働く人の“声”や、“人感”を届けられる。noteはそんな存在」。キリンホールディングスコーポレートコミュニケーション部の平山高敏氏がこう語るように、キリンは2019年4月19日にnoteでの情報発信を開始以来、コミュニケーションツールとしてnoteをふんだんに活用。さまざまな「人」や、「社会課題に対する取り組み」に焦点を当てたコンテンツを出し続けてきた。
キリンの規模の会社になると、なかなかすべての従業員の顔や取り組みを外に見せることは難しい。しかし、商品やサービスをつくりあげているのは従業員であり、彼ら彼女らの日々の活動だ。商品開発に懸けた思いなど、企業の「人格」ともいえる、従業員一人ひとりの中にあるストーリーを伝えられれば、「キリン」という会社をより深く世の中に知ってもらえるのではないか――。
こうした観点で、noteで情報発信をしてきた結果は、社内外問わずさまざまなところで反響を呼んでいる。noteで紹介されていた社員インタビューの「実直な声」により新卒入社を決めた新入社員もいれば、後述するが、EC専売のお酒をテスト販売したときにnoteで商品開発の背景を紹介すると、用意した数量分が瞬時に完売したこともあった。
また、競合メーカーのサッポロビールとは、互いに北海道産のホップ「ソラチエース」を使用したビールを販売していることから、「ホップを愛する2社が、競合メーカーであるという垣根を超えて、ソラチエースをテーマに語り合う」という主旨のもと対談企画を展開(※キリンビールが共同出資するアメリカのブルックリン・ブルワリーが「ブルックリン ソラチエース」を販売)。インナーコミュニケーションから社外へのブランディング、競合企業との対談のようなチャレンジ企画まで、noteの対象範囲は幅広い。
キリンはnoteを運用するうえでKPI(重要業績評価指標)として、売り上げに直結する指標は設定していない。とはいえ、企業が人件費など一定のコストをかけてメディア運営をする以上、当然何かしらの「成果」は求められるもの。キリンではどのような形で、その成果を追い求めているのだろうか。
note開始の旗振り役で、現在も運用担当として活躍するキリンの平山氏のインタビューから、他のSNSとの違いやnote運用で成果につなげる方程式を導く。
他のSNSとはあえて違う戦略を取る。キリンにおけるnoteの役割
キリンは大手企業らしく、Twitter、Instagram、Facebook、メールマガジン、オウンドメディアの「KIRINto(キリント)」など、あまねくチャネルを活用している。公式アカウントという「点」を多数持つことで、各メディアを活用するユーザーと直接つながる「面」を広げる狙いだ。
「キリンビール」「キリンビバレッジ」などの事業会社による公式SNSアカウントを管轄するのは、広報機能を持つ本部のコーポレートコミュニケーション部。もともとデジタルマーケティング部が仕切っていたが、19年に切り替わった。ソーシャルメディアやオウンドメディアを通じた発信の目的を「売る」から、キリングループ全体として伝えたい情報を「ユーザーに届ける、コミュニケーションする」と、明確に定義づけたとも言える大きな方針転換だ。
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