「日経エンタテインメント!」で好評連載中の望海風斗『Canta, vivi !』のウェブ延長戦。望海が主人公・ディーナ役で出演中のブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』の共演者・福原みほとの対談。本誌では歌を中心にトークが進んだが、ここでは作品や演じる役について話してもらった。
――望海風斗がビヨンセも映画で演じた主演のディーナ役で出演中のブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』。日本初演となる同作は、東京公演に続いて2月20日から大阪・梅田芸術劇場 メインホールで上演。福原みほは、1960年代のアメリカのショービジネス界で成功を目指し、ディーナとともにコーラスグループ「ザ・ドリーメッツ」として活動するメンバーの1人、エフィ役を務めている。
望海風斗氏(以下、望海) 『ドリームガールズ』は、映画で見た後、来日版のミュージカルを見たのですが、こんなに奥が深い作品だというのは、自分が出演すると決まってから気づきました。ショービジネスの裏の部分も描いているのですが、華やかさと女性のパワフルさに引き込まれたのだと思いますね。
福原みほ氏(以下、福原) 私は映画のビヨンセ(ディーナ役)とジェニファー・ハドソン(エフィ役)が印象に残っています。リアルタイムで、アメリカのオーディション番組『アメリカンアイドル』でジェニファーが7位で落選したのを見ていたんです。「この人、歌がすごくうまいのに、これからどうするんだろう」と思っていたら『ドリームガールズ』に出てバーンと売れたので、その印象が強くて。ジェニファーの曲を聴くきっかけになった作品です。
キャラクターや物語の背景を深く探る
望海 お稽古が始まってから演出の眞鍋(卓嗣)さんやキャストのみんなともいろいろなディスカッションをするなかで、まず、1960年代の人種差別について知らなかったことがたくさんあると分かりました。この時代は、南部に行けば行くほど差別がひどかったり、黒人は音楽でも差別されていたりして、チャートも白人アーティストと別になっていたとか。そういうアメリカだとみんな知っていることが物語に普通に盛り込まれているんですが、それらを一個一個「なんでなんだろう?」と考えながら台本を読み進めています。ドリームズたちも旅をしながら体感していくのですが、そういう経験がきっと、彼女たちの中で「上に上り詰めていきたい」と思うきっかけにもなったと思うんです。
でも、経験していない日本人の私が理解するのはすごく難しくて。その差を埋めるためにいろいろな映画を見たり、それこそ福原さんのアメリカで活動していたときの話も聞いたりして、「実際にそういうことがあるんだ」ということをまずはちゃんと理解して、自分と役とを通わせないといけないと思っています。作品をやる意味はそこにあると考えて、背景を含めた人物像作りにすごく時間をかけています。
福原 私も同じですね。それぞれのキャラクターの背景を深く考えるようになったのはお稽古に入ってからです。ディーナはどう育ったのか、エフィはどう育てられたのかといったレイヤーで見るようになりました。映画だと、恋愛やショービズの世界に目がいきますが、登場人物それぞれの性格だったり、貧困など家庭環境だったりを想像することが多くなりました。
それと望海さんが言われたように、今でこそ黒人の女性アーティストが活躍しやすい時代になっていますが、60年代は女性軽視も人種差別もあって。そのなかで彼女たちが自分たちでステージを作っていった、そう思うと、女性へのリスペクトが止まらないというか、『ドリームガールズ』のキャラクターたちへの尊敬がものすごく強くなりました。
望海 みほちゃんが演じているエフィは本当に魅力的ですよね。
福原 すごく愛嬌(あいきょう)のあるキャラクターで、わがままで好きなように生きているんですけど、でもみんなに憎まれない。若いときはグループから外されるようなこともいっぱいやっていくんですけどね。ただ、2幕で女性として母として成長がすごく見える人物です。すごく変わりたいなと感じている人に対して響くキャラクターなんじゃないかなと思います。でも、すごい理解できる部分もあれば、全く理解できない部分もあるんですけどね、彼女は(笑)。
私の姉にちょっと似ている気がして、姉にもリサーチして、それをヒントに役を作っていけたらなと思っています。ディーナはどうですか。
望海 映画でも舞台でも、一番つかみにくい役だなと思っていました。下手をしたらちょっとわがままな人にも見えるし、本質が難しいなと。でも実際演じてみて思うのは、ディーナは自分の苦しみや悩みを人にはあまり出さないというか言わない。それがきっとディーナの強さなので、もっと理解したいなと思いながらお稽古しています。
最初は若いからこそ信じていた自身の力で、周りに導いてもらいながら前に進んでいくんですけど、自分の想像以上のところまできてしまったという。その過程では孤独感もあったでしょうし、失ったものもあったはずで。そことどう向き合うかというところに、彼女の成長が現れているのかなと映っていますね。でも本当にあまり心情を表現するシーンがないので…。
福原 確かにないですね。
望海 ディーナが何でそうなったかというところを私もちゃんと理解したうえで(観客に)伝えなきゃいけないことは伝えるけど、あまり情報として出さなくてもいいのかな、とか案配も考えながら作っていきたいです。今までいろいろな役に出合いましたが、これまでとはまた違う非常に難しい役どころだなと感じています。
演出家から言われた歌で届ける芝居
福原 私は音楽人なので、この間、第2幕の鍵となる歌を歌ったとき、自分としては「よしっ、この歌いけた!」と思ったんです。でも、演出の眞鍋さんに「これでMAXですか」と言われて私が落ち込んでしまって(笑)。「MAXってボリュームのことですか?」とお尋ねしたら、眞鍋さんのところには全然届いていなかったんです。眞鍋さんはお芝居をずっと作られている方なので、人間の情熱、パッションの渡し合い、そういうものをすごく大事に演出されているんだな、自分が出したエネルギーの100倍くらい出さないと彼に届かないんだな、というのを日々痛感しています。
セリフの言い方をあやこさん(望海の本名)にも相談したら、「歌うときのエネルギーがいいから、その感じでセリフも言ったらいいと思う」とアドバイスしてくれたので、日々練習しています。エフィ自体がすごくエネルギッシュな女性なので、バーンッと弾ける何かを、もっとたくさん出さないといけないんだなと。
望海 眞鍋さんはストレートプレイの舞台を作られてきた方なので、ミュージカルといえども人と人との心の交流というか、1人で完結させるものではないということを大切に舞台を作られているなと感じています。どうしてもミュージカルって前(客席)に向かって歌ったり、感情を前に飛ばしたりしがちですが、最終的には前に飛ばすにしても、芝居で向かい合う相手から受け取ってそれをちゃんと返すというパスの応酬をきちんとするということですよね。お稽古も最初、ワークショップから始まりましたもんね。
福原 やりましたね。
望海 そういう基本というか、なくしてはいけないお芝居の大切な部分を教えてくださっていると感じています。例えば私たちがやりにくそうにしているシーンとか…アメリカの作品なので日本人的な脳だと「何でそうなるの? 何でそこの感情にいくの?」と思ってしまうことも少なくないんですが、そういう箇所を話し合いながら、「こう思う」などちゃんとおっしゃってくださいます。また、こちらがやりたいことを試させていただき、チャレンジできるお稽古場になっているのがすごくいいなと思っています。
福原 (取材時の)今はお稽古場で役者もスタッフさんも日々奮闘しているんですけども、演じる役者たち自身の戦いと、キャラクターの物語の中の戦い、この両方を本番の舞台でもぜひ、楽しんでいただけたらと思います。初日から千秋楽の間ですごく成長の過程が見られるんじゃないかなと。
望海 エフィはみほちゃんと村川絵梨さんのWキャストで、役は同じといえど全然違うキャラクターになっているので、私としては2つ楽しめるというか。
福原 大変じゃないですか(笑)?
望海 全然大変じゃないです! 「演じる人が違うと同じ役なのにこんなにも違うんだ」と日々感じてますし、楽しいです。きっと公演中も毎回新鮮なんだろうなって。踊りもすごくたくさんあって、そのなかで歌って芝居をするのは、当たり前とはいえこんなに大変なんだなって改めて感じながら(笑)。
福原 役者さんはみんな、「このミュージカルが今までで1番ヤバい」って言っていますから(笑)。
望海 それだけエネルギーを必要とする作品をできるのは、すごいことだなと。なのでぜひ、劇場で私たちの、「前に進みたいんだ」というディーナたち人間のエネルギーを生で感じてください。
セットもすごくこだわっていて。壁をテーマにしているんですよね、ディーナたちの前に立ちはだかる壁。それが形を変えていくのも見どころですし、衣装も早変わりを楽しみにしていただきたいなと。
福原 (セットや衣装は)完全に日本版オリジナルになっていますよね。
望海 視覚的にもとても華やかで、音楽も楽しいミュージカルです。来日版とは全然違うものになっているので楽しんでください。
(写真提供/梅田芸術劇場)