※日経エンタテインメント! 2023年2月号の記事を再構成
結成10周年となった2022年に初の日本武道館公演を行い、年末には『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たした緑黄色社会。10年の音楽活動を通して“リョクシャカ”が今思うこととは? またメジャーデビュー5周年となる23年の目標についても語ってもらった。
コロナ禍が一定の落ち着きを見せ、ライブが復活し始めたことで、バンドシーンが再び盛り上がりを見せている。2022年12月末の『NHK紅白歌合戦』にも2組のバンドが初出場。その1つが、“リョクシャカ”の愛称で知られる、男女混成の4人組バンド、緑黄色社会だ。
長屋晴子、小林壱誓、peppe、穴見真吾の4人で12年に愛知県で結成。22年は結成10周年を迎え、まさに飛躍の1年となった。4月には映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』の主題歌『陽はまた昇るから』を発表。同月には、長屋がパーソナリティーを務める『オールナイトニッポンX(クロス)』も始まった。7月にはロングヒットとなっていた、20年発表の『Mela!』のストリーミング再生が2億回を突破。9月には自身初となる日本武道館公演を開催した。年末に出場した『紅白』は、彼らの結成以来の夢だったという。
peppe 大みそかは祖父の家で親戚のみんなと『紅白』を見て過ごしてきたので、「やっとおじいちゃんおばあちゃん孝行ができたな」と思いましたね。
小林 結成以来、目指し続けていた場所でした。21年も『Mela!』をたくさん聴いていただけたので、みんなで静かに期待していましたがかなわず、22年こそはという気持ちがありました。今思うと、21年に出られなくてよかったのかなと(笑)。
長屋 そうかもしれない。21年はライブなど活動に制限もありましたが、22年は春からバンド史上最大のホールツアーに出て、ギアを上げつつ武道館を迎えられた。それが大きかったと感じます。武道館はいざ立ってみると、今までのどの会場とも違う緊張感がありつつ、不思議と緊張はしなくて。いろんな方々が覚悟を持って立たれた場所なので、そうした方々の強い気持ちが足元から伝わってくるようで、パワーを得られたのだと思います。ライブしながら、自分たちのその先を思い描けたのは初めての感覚でした。
『Mela!』と共に成長
テレビでの歌唱をはじめ、各地で再開された音楽フェスなど様々な場面で披露し、今や彼らの代表曲となった『Mela!』は、気弱な主人公が胸の中に眠る正義をたぎらせ、大切な君のヒーローになりたいと歌う前向きなポップチューンだ。この曲は、作詞を長屋と小林が、作曲はpeppeと穴見で共作したもの。4人のクリエーションが結実し、ブレイクのきっかけとなったことは、彼らに大きな自信を与えたようだ。
長屋 曲を出したときは、ここまで影響が広がるとは思っていませんでした。曲のテーマはヒーローですが、弱いところを見せる主人公がだんだんとかっこよくなっていく様を3年かけて見せてもらった感覚です。バンドも一緒に育っているようでうれしいですね。
peppe あまり意識したことはなかったけど、私が好んで聴いてきたなかで、メンバー全員が作詞作曲するバンドって、あまり思い浮かびません。そういう意味では、先駆的な曲になれたのかなって。
長屋 『Mela!』が育っていくことで、年々その思いは強くなっています。先日、対バンライブでUNISON SQUARE GARDENさんと共演した際に、ボーカルの斎藤(宏介)さんが「全員が作曲者だなというパフォーマンスをするね」と言ってくれて。それがうれしく、また誇らしくもありました。
穴見 これからバンドをやる人たちは、メンバー全員が作曲するといいよね。最初は「できないよ」って思うかもしれないけど、僕もそうだったから1回やってみてほしいです。
11月にリリースした最新シングル『ミチヲユケ』はドラマ『ファーストペンギン!』の主題歌として書き下ろしたもの。疾走感あるロックサウンドを軸に、ジャズやヒップホップの要素も取り入れたハイブリッドで力強いサウンドが印象的だ。長屋の圧倒するようなパワフルな歌唱や言葉選びなどから、バンドの進化が随所に感じられる1曲に仕上がった。
peppe 1曲にここまでいろんなジャンル感を入れられたのは初めてじゃないかなと。
穴見 アレンジはかなり自由度が高くなりました。例えば、2A(2コーラス目のAメロ)はヒップホップを感じられる譜割りを取り入れたり、Bメロではジャズっぽさを結構強めに押し出しました。疾走感とスロウな部分のメリハリも付けられました。
小林 この曲は穴見と僕で作曲したんですけど曲作りにおいては、1人が「これでいいのかな?」と迷っていると、もう1人が「いいじゃん!」と背中を押してくれるから前に進めやすいんです。共作に関しては、歌詞のほうが難しいかもね。
長屋 そうだね。言葉として分かりやすく認識できるぶん、あるはずのない正解をつい求めてしまうんです。今回は私1人で書きましたが、何度も書き直しました。ドラマと同様に1人の女性が立ち向かい、前向きになれることがテーマだったので、最初はもっと強さに振り切っていて、聴きようによってはきつく感じてしまった。なので、マイルドになるよう言葉をかみ砕いて伝わりやすさを意識しました。
全員での曲作りで深めた絆
当初描いた夢を着実に実現させていっているリョクシャカ。それが可能となっているのは、様々な面において4人が助け合えているからだという。
長屋 結成当初は、楽曲は小林と私がメーンで作っていましたが、2人だけでは曲作りのスピードが上がらないという理由から(笑)、全員で作るようになったんです。曲は自分の分身だから、うまくいかないときのつらさや、いい曲ができたときの楽しさも分かち合えるようになりました。それと、4人の関係性が変わらないこともバンドにとっては大事。高校の同級生と幼なじみが集まって、成長しながらも仕事と感じずに曲作りやライブを楽しめています。
穴見 そうだね。もし仕事と感じるようになったら、コミュニケーションが難しくなっていくんじゃないかな。この4人の関係性と男女混成バンドであること、そして、誰もやっていないような作曲法で作った曲を長屋の声で歌う。この複合的な条件を満たすのは、当たり前ですが緑黄色社会だけなんです。僕自身、曲を作っていても、どんな歌詞が付くのか予測ができない。想像の範疇にない歌詞や歌い方が飛び出してくるワクワク感が、聴いてくださる方にも伝わっている気がします。
小林 長くやる上で、曲を作るときにいろんな人の脳が入ったほうが広がりも生まれるのかなと。それぞれピンチはありますが、調子がいい人がそれを補えるのはラッキーですね。おかげでストックはたくさんできましたが、クオリティーはどうかな(笑)。ただ、ノリで作った5年前のデモを聴き直して、「めっちゃいい」と新鮮に思ったりもするんですよ。
長屋 そうそう! ストックはどう化けるか分からないから大事だよね。
充実した時を過ごす4人は23年、メジャーデビュー5周年を迎える。新たな節目に、どんな音楽を鳴らそうと考えているのか。そして、次なる夢とは…。
長屋 個人的には、パワフルで疾走感のある楽曲が続いていると感じるので、スロウな、柔らかい曲もリリースしたいですね。バンドとしては、ここ最近のテーマは“説得力”。年齢的にも同じ目線かつ引っ張っていけるような楽曲を作りたいと話しています。
小林 そうだね。『Don!!』(『ミチヲユケ』カップリング)には、「多様性を認め合い、互いを大事にしよう」というメッセージを込めましたが、それは緑黄色社会として、今を生きる人間として、言葉にしていきたい思いがあるからです。当たり障りのないことばかり歌うこともできるけど、いろんな人に聴いてもらえるチャンスが増えた今、伝えていきたいなと。
長屋 そういう意味では、ラジオの存在は大きいですね。ラジオをきっかけに私たちのことを知ってくれる人も多くて、ライブにまで来てくださったり。これまで届いていなかった人たちにも、ちゃんと届いているなと実感しています。
小林 あと、火曜日の24時から放送してるので、水曜日に曲のリリースがあるときは、最速でオンエア解禁できるのもありがたいよね。
穴見 具体的な目標としては、まずは地元の日本ガイシホールにアーティストとして立つことです。
長屋 それと、海外でのライブもやりたい。アニメの主題歌をやらせていただいてから、海外の方から「待ってます」「来てください」とのコメントをたくさんもらっていて。アニメの偉大さを痛感しています。
peppe 私はMCでは英語でこれを言おうとか、すでにイメトレもしてます(笑)。
小林 あと、いつか実現したいと言えば、ドームですかね。ドームに観客として行くたびに「これだけの人を一堂に感動させるってすごいな」と思うので、ステージに立つ側になってみたいですね。
(写真/中村嘉昭)