※日経エンタテインメント! 2023年2月号の記事を再構成

『十二人の死にたい子どもたち』や『3年A組』など、数々の話題作で経験を積み、若手実力派として知られる萩原利久。23年は、大きな反響を得た『美しい彼』の劇場版が公開に。新たな代表作に出合い、さらなる飛躍の時を迎えている。

劇場版『美しい彼~eternal~』が4月7日に公開される萩原利久
劇場版『美しい彼~eternal~』が4月7日に公開される萩原利久

 ミステリアスな空気感と確かな演技力を持ち合わせ、映画『十二人の死にたい子どもたち』(19年)や、連続ドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(19年)などの話題作で存在感を放ってきた萩原利久。2008年にデビューし、活動をスタート。現在24歳ながら豊富な経験を持つ萩原の、俳優としてのステージがもう1ランク上がったのが、2021年の11月~12月に放送された、MBS制作のドラマ『美しい彼』だ。

 無口で友達がいない“底辺男子”の平良一成(ひら・かずなり)が、高校のカーストで頂点にいるカリスマ・清居奏(きよい・そう)に思いを寄せる青春物語。この『美しい彼』で萩原は平良を演じ、ダブル主演した清居役の八木勇征と共に作品をけん引した。評判は回を重ねるごとに高まり、配信により海外でも評価され、ギャラクシー賞の「マイベストTV賞」グランプリを受賞するなど、放送後も話題が続いた。

 注目度が高まるなか、昨年は年間を通して計7作品に出演。ますます活躍が期待される今年は、劇場版『美しい彼~eternal~』が4月7日に公開される。『美しい彼』と昨年の仕事の振り返りと共に、主役を任されることへの現在の気持ちを聞いた。

清居の存在を定着させて

 『美しい彼』に関しては、ここまで大きな反響になったことにびっくりしたというのが正直なところです。もちろん、見てくださる方に向けて取り組んではいましたが、国外にまで広がるとは考えてもみなかったです。いいものにしたいという思いで、現場で一生懸命作ったものが、多くの方に見てもらえるうれしさを、改めて強く感じられた作品になりました。

 「こんな作品がある」と聞いたのは、21年の夏前だったと思います。初めてのジャンルでしたし、シンプルに挑戦してみようという気持ちで「やりたいです」と言って。そこから、「どうやったら平良を自分の中に取り込めるのか」ということを考えながら、凪良ゆうさんの原作を読みました。

 吃音症があって周囲になじめない人物像なので、人と会話するというより、モノローグが多かったんです。だからドラマの現場では、言葉を使わずに、表情やしぐさなどで心の動きを表現しなきゃいけない。それが難しくて、いつも当たり前のようにあったセリフが、いかに情報として強いかを思い知らされました。

 心掛けていたのは、目線の使い方です。僕は普段、すごく人の目を見て話すほうなんですが、平良は人を見る角度も基本下からだし、しゃべるときはほぼ見ない。そういう平良の日常を、どれだけ僕が当たり前のこととして取り入れられるか。あとは、清居に対する思いです。清居の存在をどれだけ自分の中で大きくできるか。フラットな目線だと、なんで清居のことにあれだけガムシャラになれるか分からないので、清居を自分の中に定着させることから、役作りをしていきました。

 キャラクターとして狙ったのは、「キモイ」だけにならないように、ギリ「かわいい」がつくかつかないかのライン。どう思われるかとか関係なく、平良なら清居に100%を注ぎ続ける。シリアスとコミカルのメリハリも作品の魅力なので、平良のそんな様子を傍から見たときに、ちょっとクスッとできたらいいな、みたいなアプローチの仕方をしていました。

清居がいてくれたからこそ

 清居役の八木勇征の存在も大きかったという。FANTASTICS from EXILE TRIBEのボーカルである八木は、この作品が本格的な俳優活動の第1歩となった。

 勇征のお芝居を見たことがなかったので、始まる前は「どんな方なんだろう?」と。でも、初めて会ったとき、「清居がいる」と思いました。まず、美しいという説得力があるのがすごい(笑)。『美しい彼』というタイトルで、美しい役をやるって、すごくないですか? そこに説得力がなかったら、物語が成立しないので。

 勇征は、お芝居が初めてには見えなかったです。やっぱり、アーティストとしてあれだけたくさんの方の前でパフォーマンスしているからなのか、堂々としていました。常に100%を飛ばしてくれていたので、僕としては何も要求することはなかったです。ただ清居が投げてくれたエネルギーを受け取ることで、僕は平良でいられました。清居を心の中心に置くことは絶対にブレないようにしていたので、僕1人というより、やっぱり清居がいてくれたからこそだと思います。

 印象に残っているシーンは…自転車かな。特に最終話(第6話)。自転車のシーンって、大きな出来事があった直後に出てくるんです。その出来事自体、キーポイントになりますが、必死に演じているぶん、周りを見る余裕がなく終わっていくんです。どんなやり取りをしたとか、あまり覚えていなくて。ナチュラルに近い2人だったり、ワンカットで撮ったりする撮影状況的にも、自転車のシーンのほうが記憶に残っていたりします。

参考記事 八木勇征 『美しい彼』で才能が開花、可能性を広げた充実の1年

端的な言葉で理解できた

 酒井麻衣監督とは、映画『ウィッチ・フウィッチ』(18年)などで仕事をしてきている。ドラマに続き映画も手掛けており、劇場版『美しい彼~eternal~』の撮影では、チームが再結集した。

 酒井監督と初めてご一緒したのは、確か18歳くらいのとき。現場でのスタイルを分かっていたので、「きっと酒井監督、こうしたいだろうな」とか、汲み取れる部分もありました。何かあったら話し合いますが、割と少ないコミュニケーションでも成り立つ感じで、細かいニュアンスを確認するというよりは、「足して」「引いて」みたいな端的な言葉で、お互いの想像しているラインに持っていけたのは、強みだったと思います。

 劇場版の撮影では、ドラマと同じチームのみなさんと再会できてうれしかったです。安心感のある現場でしたが、平良と清居の思いが通じた後の続編ということで、2人の関係性がガラッと変わったんです。ドラマのときは、平良の一方的な思いのみがあって、それを投げつけるだけだったのが、いざ思いが通じたとなると、僕自身は急に難しく感じちゃって。一方通行だったら、「今はこれを言うしかない」と限定的だったものが、「これもできる、あれもできる」と選択肢が増えたので、そこをすり合わせるために、劇場版では密にコミュニケーションを取りました。

 映画の仕上がりはまだ見ていないのですが、ドラマではテンポよく進んでいたものが、会話の速度だったり、やり取りの間だったり、表情や空気感も含めて、より現場でリアルに感じていたものを見ていただけるのではと思っています。人と接する上での大切なことだったり、1人の人のことを思う真剣な気持ちを描くことに、チームのみなさんと向き合ってきたので、きっといろんな方に世界観を楽しんでもらえると思います。

吸収するものが多かった2022年

 昨年はホラー映画『牛首村』のほか、コミカルな描写が魅力の連ドラ『探偵が早すぎる~春のトリック返し祭り~』や『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』など、作品の振り幅も大きかった。

 吸収するものが多かった年でした。『牛首村』は、CGを使ったシーンがあって、グリーンバックの前で、見えないものを見えている前提でやらないといけなくて。「こんなものが、こんなタイミングで出てきます」と説明を受けても、想像するしかないんです。初めての経験で、イメージ力の大切さを感じた現場でした。

 『探偵が早すぎる』では、滝藤賢一さんや広瀬アリスさん、水野美紀さんといった先輩の「本気で真剣にふざける」という職人技を見ました。ただわちゃわちゃすればいいわけじゃないし、1番難しいです。緻密に、真面目にふざけられる俳優さんって「スゴイな」と思いながら、現場にいさせてもらいました。それは『新・信長公記』も同じで、僕もコメディを演じ切れる力量を身につけたいです。

 主演経験はあったが、『美しい彼』では劇場版も制作されるほどの反響を得られた。作品の真ん中に立つことへの意識に変化は?

 主演はやっぱり難しいです。お芝居もですが、それ以上に周りを見ないといけない。主役って、良くも悪くも現場がその人の空気になってしまうと思うんです。先輩の現場を見てきて、みなさんやっぱり周囲をよく見ているんですよね。僕も、ちょっとうまくいっていないときこそ、いいエネルギーを発せられる人になりたい。自分次第でいい現場にできる、そんな舵を取れる人になりたいです。

萩原利久(はぎわら・りく)
1999年2月28日生まれ、埼玉県出身。子役として2008年にデビュー。近年の主な出演作は、ドラマは『3年A組-今から皆さんは人質です-』(19年)、連続テレビ小説『エール』(20年)、『美しい彼』(21年)、『探偵が早すぎる~春のトリック返し祭り~』『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』(共に22年)、映画は『花束みたいな恋をした』(21年)、『牛首村』『左様なら今晩は』(22年)など、様々な作品に出演。23年は、『萩原利久 1st写真集「R」』が2月28日頃発売のほか、出演映画『おとななじみ』(5月12日公開)が控える。主演連ドラ『月読(つくよみ)くんの禁断お夜食』(土曜23時30分/テレ朝系)が4月からスタート。
劇場版『美しい彼~eternal~』
高校の同級生である平良(萩原利久)と清居(八木勇征)の関係を、繊細に描いた凪良ゆうの小説を実写化。恋人同士になった2人が、新生活をスタートさせる。ドラマに続き、酒井麻衣監督と脚本家の坪田文も続投。4月7日公開/カルチュア・パブリッシャーズ配給
(C)2023 劇場版「美しい彼~eternal~」製作委員会
(C)2023 劇場版「美しい彼~eternal~」製作委員会

(写真/橋本勝美 スタイリスト/Shinya Tokita ヘアメイク/カスヤユウスケ[addict_case])

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