
「ニューバランス」のスニーカーの履き心地は、高級車になぞらえて“ロールスロイス”に例えられる。そうした強い独自性をもってしても、便益と結び付けなければ顧客には手に取ってもらえないという。過去に実施した若年層を対象とした広告施策では、消費者の中で商品、便益、独自性が結び付いておらず、「広告はつくりものである」と看破された。ニューバランスが強いブランドでいられるのは独自性に甘んじず、新しく生み出した便益と結び付けて顧客に提案し続けているからだ。便益と独自性、そのバランスがヒットの条件では必須になるという。
側面の「N」のロゴ、キーカラーである「グレー」、米国製の高級モデル、スニーカーのロールスロイスに例えられる履き心地、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズも愛用――。
これらの特徴を目にしただけで、ニューバランスのスニーカーを頭に思い描いた人も多いのではないだろうか。米国のボストンで1906年に創業された老舗スポーツシューズのブランドは、今やアスリートだけでなく、ファッションアイテムとして全世界に普及している。
日本国内でもニューバランスのスニーカーは根強いファンを多数抱え、米国製の限定モデルは4万円近い価格でも抽選に応募者が殺到し、即完売する人気を誇る。さまざまなアパレルブランドやアウトドアブランドなどとコラボレーションした商品は、コアなスニーカー好きだけにとどまらず広くファッション好きを魅了する。
そのニューバランスの国内マーケティングをけん引するのが、ニューバランスジャパン(東京・千代田)マーケティング部の鈴木健ディレクターだ。同氏は広告代理店や大手スポーツブランドのナイキジャパンを経て、2009年にニューバランスジャパンに入社した。ナイキからニューバランスへの転身と華々しい経歴に見えるが、実はニューバランス入社直後に手痛い失敗を味わった。人気スニーカーブランドとして幅広い顧客層に定着した印象のあるニューバランスといえども、ブランドを根付かせる道のりは平たんではなかった。
消費者調査で広告はつくりものと看破
当時、ニューバランスには固定ファンこそいたものの往年のスニーカー好きが中心で、若年層の顧客獲得がマーケティング課題になっていた。転職直後の鈴木氏は人気タレントに商品を履いてもらう広告をファッション誌に掲載する施策で、この課題に挑もうとした。
この広告を掲載後にグループインタビューを実施して、広告に対する印象の消費者調査を実施した。すると、広告であることを明かさずに印象を尋ねたにもかかわらず、「20代の男性に『こんなの本当は(自分の意志で)履いていないでしょう。これは広告だ』と言われた」(鈴木氏)。「人気タレントを広告に使えば売れる」という「ブランディングの誤解」を象徴する出来事だ。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。