「ブランディング」の誤解 第4回

Strategy Partners(東京・港)代表取締役の西口一希氏のインタビューを基にした記事「P&Gでの失敗で気付いたブランディングの誤解 顧客は便益で買う」は、大きな反響を呼んだ。本特集では再度、西口氏への取材を敢行。「ブランディングの誤解」が広がる背景、ブランディングを正しく行うための手順、その際に気を付けるべき表現方法のポイントなどについて聞いた。

西口 一希 氏
Strategy Partners 代表取締役 兼 M-Force 共同創業者 兼 グロースX 社外取締役
1990年大阪大学経済学部卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)マーケティング本部に入社。「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランド担当。2006年ロート製薬入社。執行役員マーケティング本部長として60超のブランドを統括。ロクシタンジャポン代表取締役、スマートニュース執行役員マーケティング担当(日本・米国)を経て、M-Forceを創業。Strategy Partners代表取締役社長、グロースX 社外取締役

――先進性のある広告をつくったり、現代的なパッケージデザインに刷新したりすることで売り上げが上がるという風に、ブランディングが誤解されている背景をどう見ていますか。

西口一希氏(以下、西口) ブランディングの誤解を生み出している大きな理由は、既に成功している商品やサービスのイメージ指標や評価KPI(重要業績評価指標)をもってして、まだ成功していない商品やサービスの成功に導く手段やKPIのように結果と手段を履き違えていることです。因果関係を誤解しているのです。よくあるブランドランキングなどはおもしろいですが、それ自体に再現性はありません。「iPhone」利用者の評価やイメージ指標の高い部分をまねしても、iPhoneはできません。

 もう少し具体的に言うと、成功している既成ブランドの「好感度」「信頼度」「親近感」「新規性」「NPS(ネット・プロモーター・スコア)」などの評価が高かったとしても、それをまねしてクリエイティブ制作や、イメージ訴求、ロゴの刷新などをしたところで、成功しているブランド同様に売り上げが上がるわけでもないし、ブランドができるわけではありません。好感度、信頼度、親近感などの指標が上がったからものを買うという人は少数で、商品やサービスの具体的な便益と独自性に消費者が価値を感じて、実際の使用において再評価するから、好感度や信頼度が高くなるのです。因果関係の理解を誤っています。

 実際にブランドとして確立できる場合、まず上がっていくのは顧客の「購買頻度」と「継続購買率」です。継続購買率が高まると、顧客の「平均購入単価」も上がります。継続的に商品・サービスを利用することで、それに応じて好感度や信頼度、親近感といった指標が二次的に高まっていきます。米アップルの歴史を見ても、便益や独自性が弱かった商品は継続していません。

ブランドの本質は顧客の生活の一部になること

――「ブランディングの本質」について西口さんのお考えを教えてください。

西口 ブランドの本質とは商品・サービスの購入・利用が習慣化され、顧客の生活に欠かせないものになり、意識させずとも手に取ってしまう、使ってしまう状態を指します。その商品でしか味わえない「味」や「健康への効用」など、強い便益とその商品にしかない独自性があれば、顧客は自然とそれを思い出して、誰にも言われなくても選んでくれます。商品・サービスが生活の一部になるということは、その顧客にとって代替する便益や独自性を持つ商品・サービスが存在せず、購入している商品でしか得られない便益と独自性を感じている状態です。それがブランドです。

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