「ブランディング」の誤解 第2回

「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「正気のサタン」……。ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が手掛けるビールは、いずれも個性的な商品名やパッケージデザインが特徴だ。だが、決して一過性の話題と売り上げづくりを狙い、奇をてらったマーケティングをしているわけではない。「100人に1人に深く刺さる」商品開発にこだわり、その便益と独自性を追求した結果としてのクリエイティブだ。事実、同社のブランドの多くは顧客に長く愛飲されている。それは19期連続増収という業績にも現れている。

ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が手掛けるビールは、いずれも個性的な商品名やパッケージデザインが特徴だが、そのネーミングやパッケージデザインはいずれも商品の便益に立脚している
ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が手掛けるビールは、いずれも個性的な商品名やパッケージデザインが特徴だが、そのネーミングやパッケージデザインはいずれも商品の便益に立脚している

 「ブランドは顧客の中にできていくもの。ロゴなどのアイコンやパッケージデザインは、顧客の頭の中で商品とつなぐのが役割だ。当社がパッケージやネーミング先行で商品をつくることはない」

 ヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)におけるブランド論を問われると、ブランド戦略ユニットディレクターを務める仮屋光馬氏はこう切り出した。同社は「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションとして掲げ、クラフトビールを通じて日本のビール文化を変えることを目指して、さまざまなビール商品を開発する。

 ヤッホーが展開するビールは、「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「正気のサタン」など、個性的なブランド名が目を引く。そのブランド名や、パステルカラーを使った商品パッケージなど、従来のビールのイメージを大きく覆すクリエイティブに光が当たりがちだが、決して奇をてらったマーケティングで短期的な話題づくりと売り上げ増加を狙おうとしているわけではない。ヤッホーが生み出したブランドは、その多くが顧客に長く愛されている。期間限定商品などを除けば、2012年に発売した水曜日のネコ以降、すべてのブランドが現在も終売せずに、継続販売されているという。

 ブランドが愛されるのは、商品そのものが持つ便益や独自性に強く価値を感じるファンが付いているからだ。「商品数では大手企業に負けるかもしれないが、顧客から圧倒的に支持される強いブランドをつくり、ファンを起点に顧客を増やしていくことで競争優位性を生み出すのが、当社の企業戦略だ」(仮屋氏)

 特集の第1回でも解説した通り、ブランディングとは顧客にとって習慣化し、生活の一部になることが本質。その観点で言えば、ヤッホーが手掛けるブランドはいずれも熱狂的な固定客が付き、継続的な購入につながっているからこそ一過性の消費で終わらない。19期連続で増収という業績を達成できていることがそれを裏付けている。ヤッホーの商品開発のプロセスを順に追いながら、顧客に愛されるブランドづくりを学ぼう。

「100人に1人に深く刺さる商品づくり」にこだわる

 ヤッホーの商品開発のプロセスは市場調査、消費者調査を基にした商品案やコンセプト設計からスタートする。そして、そのコンセプト設計に基づく具体的な商品開発へと駒を進め、ネーミングやクリエイティブを制作する。決して突拍子もないプロセスを踏んでいるわけではない。ただ一点、「100人に1人に深く刺さる商品の開発に非常にこだわっている」ことが、ヤッホーならではの方針だと仮屋氏は説明する。

 その理由はブランドを支える顧客の構成にある。ヤッホーのブランドの多くは上位約10%のファン層が、売り上げの約60%を支えている。「そうした熱量を持ったファンに愛されるブランドをつくるには、入り口として一部の人にでも強い共感を生む商品でなければスタートラインにも立てない」(仮屋氏)

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