
革新的な印象を与える広告をつくったり、商品を現代風のデザインに刷新したりする、いわゆる“ブランディング”に取り組めば業績が上がるという誤解が広がっている。ブランドとは本来、商品を区別する「識別子」にすぎない。ローソンは20年春にプライベートブランド(PB)のパッケージを、新デザインへと刷新したが、「商品が分かりにくい」という批判が相次いだ。この批判を受け、20年夏ごろから順次商品写真をより大きく掲載し、分かりやすいデザインへと再改修した。これは「ブランディングの誤解」の典型例だ。本特集では成功例や識者への取材を通じて、ブランドの本質を学ぶ。
ローソンのPBのデザインを巡る騒動は覚えていらっしゃるだろうか。同社はデザイン会社のnendo(東京・港)をパートナーに迎え、20年春にPBのパッケージデザインを全面刷新した。ベージュを基調としたパッケージに油彩タッチの商品イラストを載せ、ローマ字で商品名を記載した、まるでシンプルな雑貨のようなデザインに仕上がった。
お気に入りの食器や雑貨と共に並んでいても違和感のないようなデザインを採用することで、従来の価格だけで選ばれるPBから、「ローソンのPBだから」を理由に選んでもらえるようなPBへと生まれ変わることを目指した刷新だった。
意欲的なデザイン刷新だったが、ローソンの意図に反して、消費者からはネットを中心に「商品が分かりにくい」といった批判が相次いだ。例えば、納豆は「NATTO」、豆腐は「TOFU」といったローマ字の表記は消費者視点では見慣れないため、ぱっと見で何の商品か分かりにくい。さらに、商品カテゴリーを問わずに同一フォーマットを採用していたため、統一感はあったが、かえって区別のしづらさに拍車をかけた。
ローソンは当時、日経クロストレンドの取材に「商品の区別がつきにくい、文字が見にくいといった声をいただくことは、ある程度予想していた。ただ、ローソンとして『お客さまとの長期的で深いつながり』を大切にしたいというメッセージを伝えるため、まずは思い切ったデザインを展開した」と説明していた。
▼関連記事 ネットで物議のローソンPBデザイン nendo佐藤氏に真意を聞いたところが、ローソンは20年の夏ごろからPBのパッケージデザインの再改修に踏み切る。ベージュを基調としたデザインを踏襲しつつも、実写の商品写真を大きくプリントし、商品名を日本語で表記した、シンプルさと分かりやすさを両立したデザインへと切り替えた。再改修後のデザインは「商品の見分けがつきやすくなった」「統一感があり、かつ分かりやすい」といった感想がSNSなどに投稿されており、おおむね好評を得ている。
この事例は、「ブランディングの誤解」の1つ目の典型例だ。「ブランド」の語源は、農家が牛を識別するための焼き印にあるといわれる。ここから転じて、ブランドとは本来は顧客が商品を識別するための記号のようなものを意味する。本来的には「ブランディング」は売り上げを上げたり、顧客を増やしたりする手段とは定義されていない。だが、先進的な印象を与える広告をつくったり、商品のデザインを現代風に刷新したりすれば業績が伸びるという誤解が広がっている。
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