2023年2月3日発売の「日経トレンディ2023年3月号」 ▼Amazonで購入する では、「個性派ビジホ大研究」を特集。最終回となる今回は、フルサービスを売りにするシティーホテルが手掛ける宿泊特化型の人気を分析する。若いスマホ世代に向けた新ブランドで、総じてミニマルな点が宿泊者に支持されているのだという。客室内はペーパーレス、そしてその大半はシャワーブースのみ。チェックインは非対面のため、結果的にスタッフと顔を一切合わせない宿泊客もざらにいるという新世代ホテルを見てみよう。

※日経トレンディ2023年3月号より。詳しくは本誌参照

すっきりした印象を受ける、プリンス スマート インの客室。既存のプリンスブランドのホテルで使うベッドと同品質のものを導入する
すっきりした印象を受ける、プリンス スマート インの客室。既存のプリンスブランドのホテルで使うベッドと同品質のものを導入する

 あらゆることをスマートフォンで済ませる世代に照準を合わせた宿泊特化型の「プリンス スマート イン(以下、PSI)」が人気だ。「滞在を楽しむのではなく、旅の拠点として使う」「スマホでさっと予約して旅行を気軽に楽しむ」、そんなニーズに応えた“スマート”なホテルで、恵比寿や那覇など全国7カ所に展開している。Z世代の心に刺さったのは言うまでもなく、その利便性の高さや身の丈にあった使い勝手の良さから、人気は30代や40代にも広がっている。

「日経トレンディ2023年3月号」の購入はこちら(Amazon)

 PSIは「ザ・プリンス」など3つのプリンスブランドを展開する西武・プリンスホテルズワールドワイドの新ブランド。狙いはプリンスブランドの利用者層の裾野を広げることだ。「既存のプリンスブランドは、今後の消費の中核を担う若い世代を、顧客としてしっかり捉えきれてはいなかった。そのため、このターゲット層の生活になじんでいるスマホ一つで完結するという点を意識して設計した」と西武・プリンスホテルズワールドワイドのデベロップメント部PSI事業室長、前田朋子氏は説明する。そのため、客室料金は既存3ブランドよりも下げて、1室当たり1泊1万円前後に設定。プリンスブランドの知名度を上げるため、既存ブランドが出店してこなかった新幹線の停車駅や主要空港の近隣エリアに進出しているのも特徴だ。

スマート志向の宿泊特化型

 シティーホテルブランド「プリンス」系列の新たなスマホ世代向けホテル。IT技術を活用するほか、朝食をテイクアウトに対応させるといった点が特徴だ。

ロビー周りに設置されるマップ型のデジタルサイネージ(電子看板)。近隣の観光・グルメ情報などを確認できる
ロビー周りに設置されるマップ型のデジタルサイネージ(電子看板)。近隣の観光・グルメ情報などを確認できる

 PSIはフルサービスのシティーホテルと対極にあり、総じてミニマルな点が宿泊者に支持されている。例えばチェックインは非対面で、自動チェックイン機を使って宿泊客自らが手続きする。公式アプリにあらかじめ登録しておいた自分の顔を使った本人認証も可能だ。客室への入室もスマホが鍵代わりになる(本人認証にはQRコードや予約番号を使う方法もあり、他社サイト経由での予約の場合には物理的な鍵を使う)。チェックイン前の荷物は2次元コード対応の専用ロッカーで宿泊者自身が管理する仕組みだ。宿泊客に対応するスタッフが2人程度控えているものの、結果的にスタッフと顔を一切合わせない宿泊客もざらにいるという。無料サービスの朝食も、ビジホでよくあるバイキング形式ではない。メニューは提携テナントが用意し、例えばサンドイッチやお米バーガーなどテイクアウトできるものを用意している。

予約からチェックアウトまではスマホで完結(上)。公式アプリを使えば、顔認証でチェックインすることも可能だ(下)
予約からチェックアウトまではスマホで完結(上)。公式アプリを使えば、顔認証でチェックインすることも可能だ(下)

客室にバスタブが無い!?

 滞在中の大半を過ごす客室も、若い世代の志向に寄せた設計だ。入室してすぐ気づくのがホテルの利用案内などの紙類がなく、ペーパーレスな点。チェックアウトや朝食提供時刻などは、客室に置かれたアマゾンのスマートスピーカーが対応するので便利だ。テレビインフォメーションでも確認できる。アメニティーも、部屋にあるのはハンドソープ、シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディーソープなどに限られる。普通は用意されているのが当たり前の歯ブラシやひげそり、ヘアブラシ、ボディータオル、飲料水やナイトウエアはロビー周りに置かれていて、宿泊客が必要なものを自由に取る仕組みだ。「ポピュラーな客室の広さは15〜20平方メートルとコンパクトなので、スペースを宿泊客ができる限り自由に使えるようにするため、このような仕様にしている」(前田氏)

客室にはアマゾンのスマートスピーカーが置かれ、ホテル利用などに関する宿泊者の疑問に応える
客室にはアマゾンのスマートスピーカーが置かれ、ホテル利用などに関する宿泊者の疑問に応える

 バスタブは無く、シャワーブースのみの客室が大半を占めるのも特徴だ。若い世代の宿泊客は入浴をシャワーで手短に済ませるケースが多いためで、その分、通常のシャワーに加えて、天井にレインシャワーも設置して使い勝手を向上させている。ベッドは3つのプリンスブランドが導入するものと同品質で、タオルは定評のある「今治タオル」を使うという。このように客室は全体的にシンプルながら実用性は高く、居心地が良いと宿泊客に好評だ。

 一方で、このPSIとは別に、新たな動きもある。ビジネスホテルはもともと睡眠スペースや朝食をリーズナブルな料金で提供する宿泊施設として、出張経費を抑えたいビジネス需要を満たしてきた。そうしたビジネス客に寄り添うコンセプトの正統進化と言えるのが、「TKPサンライフホテル」だ。貸し会議室大手のティーケーピーが2022年12月、福岡に開業した。博多駅筑紫口を出て目の前の好立地に建つビジホ(旧サンライフホテル2・3)を買い取って始めた同社初の独自ビジホブランドとなる。強みは同社の事業の中核である貸し会議室だ。

オフィス機能を再現したビジホ

 貸し会議室大手のティーケーピーが22年12月に立ち上げた独自のビジホブランド。ビジネスの団体客はもちろん、客室以外で仕事できる環境を複数整えることで、個人客の取り込みも狙う。

場所は博多駅筑紫口の目の前(上)。コンパクトなフロント周り(下)
場所は博多駅筑紫口の目の前(上)。コンパクトなフロント周り(下)
客室数は310と大規模で、室内はポピュラーなビジホ仕様だ
客室数は310と大規模で、室内はポピュラーなビジホ仕様だ

 TKPサンライフホテルは会議室を5つ備えているが、毎日満室になるわけではない。空いている貸し会議室は、基本的に9時から18時まで宿泊客にコワーキングスペースとして開放される。さらに、1階のラウンジも仕事できる環境が整う。客室のテレビに手持ちのノートパソコンの画面を表示することもできるので、オンライン会議で重宝する。

 ティーケーピーは超ビジネス仕様に対するニーズの手応えを感じているといい、詳細は明かさないものの、2店目以降の出店に興味を示す。「TKPブランドのホテルを今後も積極的に展開していきたい」(ティーケーピー執行役員の横岩利恵氏)

貸し会議室は5つあり、予約が入っていないときは、自由に利用できるコワーキングスペースとして宿泊客に開放される。上はラウンジにあるコワーキングスペース
貸し会議室は5つあり、予約が入っていないときは、自由に利用できるコワーキングスペースとして宿泊客に開放される。上はラウンジにあるコワーキングスペース
注)客室料金は時期やエリアによって変動する場合がある
注)「個性派ビジホ大研究」は、「日経トレンディ」2023年3月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版で最新号をご覧いただけます。
▼関連リンク 「日経トレンディ」(電子版)
「日経トレンディ2023年3月号」の主な内容を紹介
【得する!ANA&JAL】
●特別対談・呉越同舟
ANA・JALキーパーソン、未来を語る
●マイレージ編
ANAマイルの期限延長はもう限界。賢く消費する6つの戦略
JALの国内特典航空券が4月に大改定。“駆け込み”で使うべき?
買い物以外で数千マイルたまる! 2社の新サービスを徹底比較
●ANA編
ANAアプリ刷新で、航空券予約から機上エンタメまでが快適に
モニター付きはどちらが快適? B787-9vsA321を試乗レポート
355日前から航空券は予約可能に! 高値づかみしない基本ワザ
●JAL編
新鋭機「エアバスA350」の見どころと新座席のベストポジション
国内航空券の種類が4月に刷新。往復、子連れはメリット大
機内食は月替わり! 国内線ファーストクラスの魅力
●格安旅行編
【LCC】観光需要増でグループ再編。中距離国際線が拡充
【ビジネスホテル】「現金キャッシュバック」を狙って安く泊まる
【旅行比較サイト】計8サイトを比較。新参カカクコムの強みとは
宿泊客の心をわしづかみ! 個性派ビジホ大研究
●驚異の利益ゼロで豪華&出来たての「極上朝食」
●「あえてロードサイド」に建つコンテナ型ホテル
「暦年贈与」で損をする!? 生前贈与の新常識
●2024年に変わる! 相続&贈与のルール改正「5つのポイント」
●相続時精算課税制度の使い勝手向上で、暦年贈与より有利に
「ドン・キホーテ」流、ヒット連発の新方程式
未来の市場をつくる100社 2023年版【後編】
▼「日経トレンディ2023年3月号」をAmazonで購入する
この記事をいいね!する