
運賃の安さから、旅行や帰省に利用する人が多い高速バス。数ある交通機関の中でもいち早く変動運賃制を取り入れてきた分野だ。2020年12月には京王電鉄バス(東京都府中市)が高速バス座席予約システム「SRS」と高速バス予約サイト「ハイウェイバスドットコム」にダイナミックプライシングを導入。同社を含む約20社が採用し、便単位での動的な変動運賃に移行した。当初は「手入力で試した」という同社。高速バス業界が模索する、効率的かつ適切な運賃設定とそのシステムの在り方とは?
交通機関にも徐々に広がるダイナミックプライシング。JR東日本は2023年3月からオフピーク時にしか使えない代わりに運賃を10%割り引く「オフピーク定期券」を都心部で販売する。鉄道事業法によって自由に運賃を設定することが難しい鉄道にも、ついに本格導入の兆しが見えてきた。
一方で、交通分野には、以前から変動運賃制に取り組んできた業界もある。その1つが高速バスだ。ここで言う「高速バス」とは、決まった路線で定期運行され、決まったバス停留所で乗客が乗降する高速乗り合いバスのこと。旅行会社などが企画し、貸し切りのバスで運行する募集型企画旅行形式の「高速ツアーバス」とは異なる。高速バスでは、年末年始やゴールデンウイークなどのハイシーズン、週末といった繁忙期には通常より高い運賃を、オフシーズンの閑散期には安い運賃を設定するといったことを行っている。
変動運賃の歴史は2012年から
そもそも、高速バスの変動運賃は、12年に実施された国土交通省の規制緩和とそれに伴う「一般乗合旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度」の改正に端を発する。これによって、運行便ごとに柔軟に運賃を設定できるようになった。
もっとも早く反応したのが、京王電鉄バスだった。同社は「京王バス」を運行する一方、高速バス座席予約システム「SRS」の運営企業という一面も持ち合わせている。自社でSRSを利用するほか、他の高速バス会社にも同システムを提供。00年からは、バス乗車券予約・決済サイト「ハイウェイバスドットコム」としてバスの乗客向けに予約サービスを展開したことで、1つのサイトから全国のバス会社のバスが予約できるネットワークを構築した。
同社は12年の制度改正を受けて、SRSとハイウェイバスドットコムを改修。季節や曜日、時間帯によって運行便ごとに複数の運賃を設定できる仕組みを導入したことで、主要な高速バスに変動運賃が広がっていった。
ただし、当時の変動運賃制は、繁忙期、閑散期のカレンダーに従って料金設定をあらかじめ設定しておくもので、現在注目されている、動的に運賃を変えるダイナミックプライシングとは異なる。それでも当時、乗客の目から見て感じた課題があった。
1つは、需給バランスを見て運賃を変動させる考え方がまだ一般的ではなかったこと。同じ路線であっても乗るタイミングによって運賃が変わることに対して、乗客の理解を得るには、時間が必要だった。
もう1つは、ハイウェイバスドットコムで予約した高速バスは、発車前であれば別の便に変更できるため、差額の扱いが複雑になったことだ。変動運賃制になると、目的地が同じでも出発時間が変われば料金が変わる場合がある。差額の支払いが頻発する可能性が高まる分、システムの対応が必要になったはずだ。
制度改正から約10年がたった現在、高速バスでは変動運賃は当たり前になっている。これは乗客が仕組みに慣れたことも含め、高速バス業界が上記のような課題と向き合いながら、柔軟かつ適切な運賃システムを模索し、浸透させてきたからと言っていいだろう。
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