個人間少額送金サービス「ことら」が2022年10月にサービスを開始した。メガバンクの主導で、地方銀行から信用金庫まで加盟事業者を増やし、お手軽なスマホ送金ネットワークを拡大している。スマホ決済アプリに奪われている資金を、銀行側が取り戻す切り札として投入したサービスの一つという位置づけだ。もっとも、スマホを用いた送金機能はQRコード決済アプリにも搭載されているが、キャッシュレス決済ほどには利用が進んでいない実態もアンケートから明らかになった。送金をてこにしてキャッシュレスの普及を推進し、“虎の子”を守るには何が必要か?

2022年10月、「ことら」サービスローンチ記者発表会
2022年10月、「ことら」サービスローンチ記者発表会(撮影/降旗淳平)

 スマートフォンから少額の送金が個人間で可能なサービス「ことら」が2022年10月にスタートしている。運営は、3メガバンクとりそな銀行、埼玉りそな銀行の5行が出資することら(東京・中央)。ことら送金を利用できる金融機関の口座同士ならスマホアプリから手軽に送金できる。サービス名称は、「小口(こぐち)」の「こ」と「トランスファー(送金)」の「とら」を組み合わせたものだ。

 ことら送金を利用できるのは、出資5行のほか、横浜銀行、千葉銀行、福岡銀行といった地銀も加わり現在31行。今後も地銀やSBI新生銀行、GMOあおぞらネット銀行、みんなの銀行など29行が加入予定。ことらに接続する計60行の銀行口座数は2億口座を超える。さらに23年度中には、全国254の信用金庫の3分の2に当たる170の信用金庫も加わる。まさに日本の民間金融機関が総力を挙げて結集する一大プロジェクトと言えるだろう。

現在、ことら送金を利用できる31行
現在、ことら送金を利用できる31行
出所:「ことら送金」サービス紹介サイトから

 ことらを活用すると便利なシーンは、飲み会後の割り勘、プレゼントを数人の友人同士で共同購入した際の精算、親から子への仕送り、A銀行口座からB銀行口座への振り替えなど様々だ。ことらには専用アプリはない。日本電子決済推進機構が運営するスマホ決済サービス「Bank Pay(バンクペイ)」、あるいは各行オリジナルの決済・預金管理アプリを使う。ことら加盟行の場合、対応アプリをインストールしているスマホ同士であれば、相手の口座番号を知らなくても、携帯電話番号や電子メールアドレスで送金先を指定できる。送金の限度額は1件当たり最大10万円。現状でサービスを開始している31行については、手数料は無料だ。

「ことら」の利用が想定されるシーン
「ことら」の利用が想定されるシーン
出所:「ことら送金」サービス紹介サイトから

 サービス開始日の22年10月11日、ことらはサービスローンチ記者発表会を開催。ゲストにタレントの関根勤さん・関根麻里さんが親子そろって登壇し、「ゴルフの割り勘に便利そう」(勤氏)、「子供の学校関係の集金に使いたい」(麻里氏)と送金デモンストレーションを通じて感想をコメントした。

 会見に出席した横浜銀行デジタル戦略部決済ビジネス戦略室室長の島山幸晴氏は、「ことらはキャッシュレスの世界を普及させるキラーコンテンツ」と普及に自信を見せた。23年2月2日には、サービス開始4カ月弱で、累計送金額が120億円を突破したことを発表している。

 もっとも、初年度の目標送金額規模を示していないため、スタートダッシュに成功しているかどうかの判断は難しい。また、個人間送金の機能自体はPayPayなどのQRコード決済アプリにも組み込まれており、その意味では目新しいサービスでもない。PayPay同士であれば、相手の携帯電話番号かPayPay IDを指定、相手のQRコードを読み取る、リンクを作成してSNS(交流サイト)/SMS(ショートメッセージサービス)で送る、のいずれかの方法で手軽に送金できる。

 だが現状、キャッシュレス決済の普及、浸透に比べると、個人間送金の認知度、利用度は高まっているとは言い難い。

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