
2025年6月末までにキャッシュレス決済の国内での普及率を40%に引き上げる──。政府が掲げるこの目標は、21年の普及率が32.5%に到達したことで、何とか達成が視野に入ってきた。しかし、これ以降の普及は頭打ちになるのではないかと懸念されている。23年4月には、スマホ決済アプリへの給与振り込み「デジタル給与払い」が制度上解禁され、キャッシュレス決済普及の追い風になると見込まれていたが、現状のままではこの思惑は外れそうだ。普及を阻む要因は何か。普及を推し進める効果的な手立てとして何があり得るか、を検討する。
ユーザーがスマートフォンにQRコードを表示し、店側がコードを読み取ったり、店側が掲示するQRコードを自身のスマホで読み取ったりして決済する「QRコード決済」。「PayPay」を運営するPayPay(東京・千代田)などが本格的に普及を推進し始めた2018年以降、キャッシュレス決済の普及はそれまでよりさらに加速され、経済産業省の調べによれば、普及率(当該年の民間最終消費支出に占めるキャッシュレス支払額の比率)は21年に32.5%に達した。キャッシュレス決済に関わる事業者・関係者の多くは、「政府が掲げる『25年までにキャッシュレス決済の普及率40%』という目標は、何とか達成できそうな状況だ」と口をそろえる。
もっとも、その後も普及が加速し、「将来的には世界最高水準の80%を目指す」という政府のもくろみが実現できるかというと、実は心もとない。これまで普及を推し進めてきた手法に限界が見られ始め、それらに代わる新たな手立ても、今のところ見いだせなくなってきているからだ。
キャッシュレス決済を推進する団体であるキャッシュレス推進協議会の福田好郎事務局長は、「コンビニエンスストア全体の決済を見ると、キャッシュレス決済の比率は4割程度。現金で支払うユーザーは依然として多い。あれだけ利用頻度の高い店舗で、店側が複数のキャッシュレス決済手段を用意しているにもかかわらず、普及率がその程度ということは、現状のままでは全体の普及率もその程度にとどまることを暗示しているかもしれない」と語る。
そのためか、経産省を代表とする政府内部では、「キャッシュレス決済の普及率を算定する計算式の改定・見直し」も検討されているという。日本では、キャッシュレス決済の普及率が高い諸外国ではあまり利用されていない「口座振替(商品を購入したり、サービスを利用したりした際、その料金を登録してある金融機関の口座から自動的に引き落とす仕組み)」の利用頻度が極めて高い。このため、こうした実質的にキャッシュレス決済と呼べる手段も含めて算出するようにすれば、普及率は跳ね上がる。言い換えれば、計算式見直しという策を講じなければ、普及率をさらに向上させることは難しいと政府の一部が考えていることの証左でもある。
なぜキャッシュレス決済の今後の普及に暗雲が垂れ込めるのか──。3つの壁が立ちはだかり始めている。
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