
パナソニック ホールディングスは、未来起点×人間中心を掲げて「デザイン経営実践プロジェクト」を推進中だ。事業部門ごとや社会や生活者といった視点で10年先の新たな価値を議論し、逆算して事業戦略を考える。社長執行役員グループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏に、狙いや背景、今後の方向などを聞いた。
パナソニック ホールディングス 社長執行役員グループCEO
――2021年にパナソニック ホールディングス傘下の各事業部門が向き合うべき社会・環境の観点で課題を定め、10年先に目指すべき姿から逆算で経営していくという「長期視点経営」の方針を打ち出しました。まずは、その狙いからお聞かせください。
楠見雄規氏(以下、楠見) 当社は長年にわたり、3年の中期計画や単年度における売り上げ、利益を重視した経営をしてきました。そうした短期的な視点も重要ですが、そこばかりに目線を置いていたら、社会の大きな変化に追随できません。
お客さまが変わり、技術が変わり、競争軸も変われば、現在、重視している価値が今後は薄れていく。新しい価値が求められるようになる。社会の変化にもっと目を向けるべきですが、目先の事業をいかに押し上げていくかを重視してきたのが当社の現状でした。変わらなければならないと理解はしていても、なかなか着手できないといった、もどかしい思いを抱いていたのです。
当社の創業者の松下幸之助の思想信条として「水道哲学」(編集部注:安価で良いモノを提供する経営哲学を、蛇口をひねれば出てくる水道水に例えた)はよく知られていますが、ほかにも生涯を通して「物心一如の繁栄」を目指していました。精神的な安定と物質的な豊かさがあいまって人生の幸福が安定するという意味で、これを「250年かけて目指す」と言っていました。これらの使命を提示したのは(創業から14年後の)1932年ですから、250年まであと160年あります。どんどん変化していくと160年後はどうなるか。今、当社が変わらなければ、160年後は活躍の場がなくなってしまうかもしれません。160年後なんてまだ先の話と、あまり楽観的でもいられません。伝統的な大企業が時代の変化に乗り切れず、消滅した歴史があるからです。当社も今、変わらないと今後、どうなるか。長期視点経営を打ち出したのは、そうした危機感があったからです。
しかし、そうはいっても3年先も見てこなかったのが、いきなり長期視点経営で、30年後を考えると言っても難しい。20年後も今の中堅社員は退職しているから実感がわかないでしょう。だから、とりあえず10年。技術開発はもっと長く見ないといけませんが、まずは各事業部門ごとに10年先を考えて、バックキャストしていくことにしました。
ただし各事業部門が自分たちだけで考えたら、「10年先もお客さまがいるはず」という安心できる考えにしかなりませんから、外からの知見も入れてやってみようということで、21年から「デザイン経営実践プロジェクト」としてデザイン部門が各事業部門を支援しながら推進することにしました。デザイン部門にはバックキャストやファシリテーションの知見があるからです。方法論はまだまだ手探りの状態ですが、すでに一部の事業部門から始まっており、今後グループ内に拡大します。
自分たちで考える組織に
――プロジェクトを成功させるポイントは何ですか。
楠見 重要な点は、各事業部門のメンバーが自分たちで考えることです。デザイン部門には、ファシリテーションでメンバーに回答を与えないようにと言っています。ティーチングではなくファシリテーションですから。各事業部のメンバーが頭の中を整理し、皆で未来を議論し、どう変革していくかをファシリテーションしながら考える。1回だけで終わらせずに、この手法を何度も実施し、各事業部内に根付かせたいと思っています。
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