米ニューヨークで2023年1月15~17日に開催された小売業界の大型イベント「NRF 2023:Retail's Big Show」の会場には1000社以上の企業が出展した。その中で引き続き注目を集めていたスマートカートをはじめとする店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)の技術。店舗とデジタルのIT技術を融合する「Phygital(フィジタル)」の可能性を探る。

2023年1月に開催された小売りイベント「NRF 2023:Retail's Big Show」の様子。写真は米アマゾン・ドット・コムの手のひら決済を使った無人店舗の展示
2023年1月に開催された小売りイベント「NRF 2023:Retail's Big Show」の様子。写真は米アマゾン・ドット・コムの手のひら決済を使った無人店舗の展示

 今回のNRF 2023では、インフレなどによる経済停滞、労働力不足、気候変動といった逆風をどう乗り切るかが主なテーマとして掲げられた。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な流行)が始まった2020年以降、オンラインでの売上拡大と共にDXが加速し、特に米国では、EC(電子商取引)回りのフルフィルメント(受注・発送管理)、サプライチェーン整備、ラストワンマイルのデリバリー網構築などにリテールテック投資が集中した。

 新型コロナ禍で店舗DXは広がったが、実現性や導入効果が低いテクノロジーは淘汰されつつある。今回のNRFの会場を回り、より現実世界の小売店舗のニーズに基づく、足元の業績回復に向けた成果に結びつくソリューションが中心に展示されていたように感じた。

Phygitalで実現する新しい購買体験

 チャネル改革を進める中、米国では「実店舗網はコストメリットもあり、良質な体験づくりにおいても強いアセット(資産、あるいは店舗が持つ機能)」と再認識され、小型店やオフモールなど新フォーマットで出店を進めるという動きも見られる。そこで注目されているキーワードが「Phygital」だ。

実店舗とIT技術の融合を意味する「Phygital(フィジタル)」をテーマとした講演。上段はNRFがネット配信している動画の映像
実店舗とIT技術の融合を意味する「Phygital(フィジタル)」をテーマとした講演。上段はNRFがネット配信している動画の映像

 Phygitalとは小売業が持つ「Physical(物理的な接点)」× 「Digital(デジタル技術)」を掛け合わせた造語である。NRFでも数年前から発信されてきた。OMO(オンラインとオフラインの融合)の一歩先にある小売業の持つ店舗や店員といったPhysicalなアセットと、アプリやECサイトなどのDigitalなアセットが融合され、お客が自在に使える状態を指す。

 ITサービス会社、米キンドリル米国部門CTO(最高技術責任者)のカイラ・ブルサード氏は、NRFの「Let’s get Phygital! (フィジタルで行こう!)」と題した講演で、オンラインとオフラインを行き来することが当たり前になったお客に対し「Phygitalによって『即時』『インタラクティブ』『没入』『ハイパーパーソナライズ』というキーワードに伴ったベストな統合型購買体験を提供できる」と語った。

 Phygitalを成功させるためには「データ、データ、データ」だと、ブルサード氏は強調した。ショッピングカート、店舗での注文履歴、店舗内のセンサー、従業員との接点、オンラインの閲覧履歴、バーチャルエージェントとのやりとりなど、リアルの実店舗とデジタルを包括したさまざまな接点であらゆるデータを取得し、お客が求めるサービスを生み出していくことが重要という。

スマートカートでパーソナライズ

 Phygitalを店舗内で実現していく上で、象徴的なソリューションの1つが「スマートカート」である。既に日本でも一部の店舗で普及が進んでおり、体験した方もいるかもしれない。米国でも、人手不足を解消し、オペレーション効率を向上させる打ち手として注目が高まっている。もちろん、テクノロジーがかなえるのはそれだけでなく、お客の購買履歴に合わせて、店舗回遊中に特典やクーポンを提供したり、商品レコメンドをしたりするなど、パーソナライズされた情報を提供できる。

 米アマゾン・ドット・コムのブースでは、複数カメラを使って製品のバーコードを読み取り、カートに納めた商品をリストアップするデモを見せていた。このスマートカートは既に同社の米国内の新型スーパーマーケット「Amazon Fresh」で導入済みだが、多くの来場者がひっきりなしに訪れてデモを見つめていた。決済という面では、手のひらをかざすだけの生体認証決済「Amazon One」の端末も紹介していた。

アマゾンはスマートカートや手のひらの生態認証決済の機器を展示
アマゾンはスマートカートや手のひらの生態認証決済の機器を展示

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
8
この記事をいいね!する