全米小売業協会(NRF)が主催する小売業界の大型イベント「NRF 2023:Retail's Big Show」が2023年1月14~16日に米ニューヨークで開催された。米国でもZ世代やα(アルファ)世代といった、デジタルネイティブな若年層へのアプローチは企業にとっても関心が高いテーマだ。NRFでは、「Zalphas(ザルファス)」と呼ばれる「Z世代」と「α(アルファ)」世代の中間層に焦点を当てた議論が行われた。NFT(非代替性トークン)を用いて、若年層にアプローチするラグジュアリーブランド「ティファニー」の取り組みも紹介された。
1990年半ばから2010年代前半に生まれた「Z世代」と呼ばれる層は、アルバイトや就職で徐々に購買力を持ち、次世代の消費を担う存在として企業からの注目も高い。Z世代よりもさらに若年世代、「22年に12歳以下」の層は「α(アルファ)世代」と呼ばれ、こちらも将来の消費の中心として価値観などへの研究が進む。いずれも、生まれたときからインターネットに触れて成長したデジタルネイティブ世代であることは共通している。
だが、人の持つ価値観はそうした世代間で分断されているわけではない。グラデーションしていると考えるのが妥当だろう。そこで、このZ世代とα世代の中間層を「Zalphas(ザルファス)」と呼ぶのが、カジュアルアクセサリーブランド「Claire's(クレアーズ)」のクリスティン・パトリックCMO(最高マーケティング責任者)だ。Claire'sはピアス、ネックレス、ヘアアイテムなどのファッション雑貨を安価に提供するブランド。日本ではイオンが20年まで展開していた。メインの顧客層がZalphasに当たるという。
パトリック氏はNRFに登壇したセッション「Young-Gen:Paradoxes and parallels」の中で、この中間世代の特徴を解説した。パトリック氏いわくZalphasには3つの特徴があるという
1.クリエイティビティーによる自己表現
広告業界誌の「Adweek」が実施した「Z世代を対象とした消費者行動」に関する調査では、回答者の50%が23年に自分で着る服を自作する予定だと答えている。トレンドを追いかけ、個性的なスタイルを貫きながらも、倹約思考であり環境思考を持つのが特徴だという。また、どの世代よりも多様化しているため、インクルージョン(一体性)と平等が標準的な価値観であり、生活で得られる体験が文化的に多様であることを期待しているという。Zalphasは不要な生産・消費を好まず、自分にとってベストだと思うものを自ら作り出すのだ。
2.アナログを愛するデジタルネイティブ
生まれたときからデジタルと共に育ったこの世代は、それによりかえって社会性や文化的なつながりを失ってしまったと自覚しており、それを補うように軌道修正しようとしているという。そのため、Zalphasはアナログをより愛する傾向にある。物理的な世界で心を動かす何かを発見し、それに関与するためのツールとして、デジタルを使おうとしているのだ。
3.背反する感情をコントロール
21年は映画のホラージャンルが13%の市場シェアを獲得し、1995年以来最高のシェア率を達成した。市場拡大になったのがZalphasの影響だ。Zalphasによって、約20年ぶりにホラー映画のチケットの売り上げがコメディー、ドラマ、スリラーを上回ったこの事実は、若者ならではのソフトで繊細な感情と少し暗い面や反抗的な面を併せ持っていることを示しているとパトリック氏は言う。
α世代は、2025年までに20億人を超える見込みで、Zalphasの年間可処分所得は3億6000万ドルとなり、30年までに世界の労働力の11%を占めるようになるという報告もあるという。パトリック氏は自社だけでなく、あらゆる企業にとって顧客となり得るZalphasを注視すべき存在だと説明する。
メタバース空間を開設、300万人の顧客が利用
「デジタルで育ちながら、フィジカルを深く大切にする複雑な感情を持つ顧客とどう接点を持つべきか」という問いに対して、パトリック氏は1つの回答として、22年11月にオンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」に開設した「シマービル(没入型デジタルワールド)」を挙げる。
徹底的な自社の顧客ヒアリングを参考につくられたシマービルには、顧客の需要が惜しみなく反映されている。利用者は自分のアバターをつくり、シマービル内に家を建設して内装を飾ったり、ペットを飼ったり、Claire’sのデジタルアクセサリーや衣服を着たりできる。また、“仕事”をして、デジタル通貨(NFT)を稼ぐなど、現実の世界と同様の生活を送れるのだ。また、ブランドのロイヤルティープログラムと連係し、ゲーム内のアイテムを実際の商品に交換することもできる。現時点で約300万人の顧客が利用しており、その結果、実店舗やECサイトの売り上げも相乗的に伸びているという。
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