米小売業界の大型イベント「NRF 2023:Retail's Big Show」の会場で、在庫管理など店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)関連の展示が並ぶ中、ゲーム開発エンジンの米ユニティ・テクノロジーズ(Unity)がブースを出していた。なぜゲーム技術が小売りビジネスと関わるのか。会場で話を聞いた。

3Dグラフィックスを使ったスニーカーの展示例。色の付いた小瓶を画面手前に置くとタブレット内に表示したスニーカーの色を変更できる。ワンポイントの絵柄を自由な位置に配置することも可能。画面のタッチ操作で、角度の変更、拡大縮小ができる
3Dグラフィックスを使ったスニーカーの展示例。色の付いた小瓶を画面手前に置くとタブレット内に表示したスニーカーの色を変更できる。ワンポイントの絵柄を自由な位置に配置することも可能。画面のタッチ操作で、角度の変更、拡大縮小ができる

 ゲーム開発エンジンとは、開発者が3Dゲームなどを効率的に開発するための機能をまとめたツールのこと。米ユニティ・テクノロジーズの「Unity」は世界で最も多く利用されているゲーム開発エンジンであり、モバイルゲームの大半がUnity上で作られているといわれる。ゲームの開始時などでUnityのロゴを見かけたことがあるという人も多いだろう。

 NRF 2023のブースでは、サイネージ内で3Dオブジェクトとして描かれたバッグの色や模様を自由に選んで購入時の参考にする店頭ディスプレーの例や、3D空間内で店舗の棚や在庫のレイアウトを再現して業務の効率化に生かす例を見せていた。ゲームの技術が小売りのビジネスをどう変化させていくのか。デジタルツイン担当上級副社長兼ゼネラルマネージャーのデイブ・ローズ氏と販売担当グローバル副社長のローラ・パルマー氏に聞いた。

――Unityはゲーム開発のプラットフォームですが、なぜ小売りの取り組みを始めたのですか?

デイブ・ローズ氏(以下、ローズ) 少し背景を説明しましょう。私は半導体業界や製造業での経験があり、3Dエンジニアリング・ソフトウエアの分野で20年近くを過ごした後、6年前にUnityにやってきました。その時に、ゲームエンジンの技術は製品の設計、エンジニアリング、製造だけでなく、販売の方法を変えるものだと気付きました。

 ゲームエンジンの3D技術は、いまや消費財から産業機械、大型の輸送機器まで、商品やサービスの設計・製造で重要な役目を果たしています。重要なのは、リアルタイムの概念です。デザイン・プラットフォームで制作したものは1秒間に60~120フレームで動かすことができます。私が考え、反応するのと同じくらい速く、スクリーン上で「リアルタイムに動く」のです。これが第1のポイントです。

 2つ目のポイントは「高忠実度」のデジタル画像であることです。例えば、私が今履いている靴は、新品のときのように黒光りしておらず、使い込んだ古い感じに色あせています。ゲームのレンダリング技術を使えば、そうした表現を出すことも簡単です。デジタルオブジェクトに生命を吹き込むことができます。

米ユニティ・テクノロジーズ、デジタルツイン担当上級副社長兼ゼネラルマネージャーのデイブ・ローズ氏(左)と販売担当グローバル副社長のローラ・パルマー氏(右)
米ユニティ・テクノロジーズ、デジタルツイン担当上級副社長兼ゼネラルマネージャーのデイブ・ローズ氏(左)と販売担当グローバル副社長のローラ・パルマー氏(右)

 3つ目は「パーソナライゼーション」。EC(電子商取引)など小売りで利用するには最も重要なことです。先ほどのリアルタイム性の話に近いのですが、今回のブースで展示しているように、店頭での操作を計測し、その情報のデジタル映像を即座に反映できます。遠隔で製品担当者に情報を送信して、市場で何が起こっているか理解することも可能です。

 こうした特性によって、様々な業界で活用できます。私たちは、より良い製品を設計するためのサポートを始めました。小売り分野は約3年前から取り組んでいます。特に高級ブランドの分野で多くの時間を費やし、同じテクノロジーを使って異なる顧客エンゲージメントを実現する方法を企業が見いだすのを支援しています。

――開発者との連携をどう進めていきますか。

ローズ 開発者との団結はゲームで培われてきました。私たちのビジネスの大部分は、ゲームスタジオや大手パブリッシャーからのものです。世界の携帯ゲームの70%近くを我々のプラットフォームから供給しています。これは私たちの誇りです。

 ゲーム以外の産業分野でも、関連企業を買収するなど、専用エンジニアリング環境を構築するために巨額の資金を投じてきました。現在では、収益全体の中で20%強を占めるようになっています。その競争優位性は、技術的な観点からゲーム業界をリードしてきたことです。Unityを扱ってきたというゲーム業界で活躍してきたクリエイターが、高級ブランド、建築事務所、自動車デザインスタジオなどに転職するということが数多く起きています。

――店舗ではどのように使われるのでしょうか。

ローズ クラウド上で展開する店舗のデジタルツイン(現実の空間を模した3D空間)のプラットフォームも作っています。例えば、米薬局大手「ウォルグリーン」はそのシステムを使い、店舗をレイアウトし、人流を検証し、実際の売り上げと照らし合わせるといった取り組みを進めています。

店内のレイアウトを3D化して業務の効率化をするためのツールも開発している
店内のレイアウトを3D化して業務の効率化をするためのツールも開発している

ローラ・パルマー氏(以下、パルマー) 他には今回のブースで見せているように、バッグやスニーカーなどの色と模様をパーソナライズできる展示です。ハイエンドな高級ブランドは、高価なパンフレットを店頭に置いています。これと同様に、美しく魅力的なデジタル体験をつくりたいと考えています。私たちは、こうした企業がデジタル体験を実現できるツールを開発しています。

3Dグラフィックスで表示したバッグの色や模様、アクセサリーの柄を変更する展示例。画面の下に並ぶ「C」マークなどにタッチすると画面内の3Dオブジェクトの色や模様が変化する
3Dグラフィックスで表示したバッグの色や模様、アクセサリーの柄を変更する展示例。画面の下に並ぶ「C」マークなどにタッチすると画面内の3Dオブジェクトの色や模様が変化する

――Unityを店舗内に導入することで、どんな成果が見えてきましたか。

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