
「驚安の殿堂」で知られるディスカウントストア最大手の「ドン・キホーテ」。うずたかく積み上げる圧縮陳列された商品群に、最近「ド」という大きなロゴを冠したものが目立って増えてきた。それがプライベートブランド(PB)「情熱価格」だ。運営元のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が33期連続で増収・増益を達成した背景には、21年2月に全面刷新した情熱価格の存在が欠かせない。なぜ、同社は思わず消費者が買ってしまうPBを連発できるのか。その秘密を探る。
キャッチフレーズ「驚安の殿堂」を掲げるドン・キホーテ(以下、ドンキ)などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)。その快進撃が止まらない。1980年の設立以来、2022年6月期まで33期連続で増収・増益を達成。昨今のインフレ基調による節約志向の広がりという追い風も吹く。22年7~9月期の営業利益は前年同期比78億円増となり、第1四半期として過去最高の業績も記録した。07年の長崎屋に続いて19年にはユニーグループを子会社化したPPIHは、今や「売上高」「総資産」「時価総額」のいずれも1兆円を達成する“トリプルトリリオン”企業の仲間入りを果たす。国内小売としてトリプルトリリオンを達成したのは、イオングループ、セブン&アイ・ホールディングス、ファーストリテイリングに次いで4社目だ。
最近の好調な業績を支える屋台骨として欠かせない存在になりつつあるのが、「ド」という大きなロゴを冠したプライベートブランド(PB)「情熱価格」の商品群だ。誕生したのは09年だが、21年2月に全面刷新を敢行。単にコストパフォーマンスの高さを売りにするのではなく、手に取った瞬間にワクワクしたりドキドキしたり、驚きを感じるブランドとしての位置づけを強めた。「PBを、顧客と一緒に創り上げるピープルブランドとして再定義して、独創的な商品だけを世に送り出す開発体制へと改めた」(PB事業統括責任者で上席執行役員の森谷健史氏)。ラインアップは、乾電池といった小さいものから、電動自転車のような大型なものまで実に200近いジャンルに及ぶ。1年間で店頭に投下する商品数は、食品だけで300アイテム以上ある。
店舗発のヒット商品も生まれている。特に食品の人気が高く、“億超え”も連発。22年の同社PB売上ランキングの1位は「素煎り ミックスナッツDX(デラックス)」(22年の年間売上高11.1億円、以下同)、2位「業務用ウインナー800g」(7.2億円)、3位「ライトツナフレーク缶(かつお) 70g×10缶パック」(7億円)と、“億超え”を連発。大手のナショナルブランド(NB)が手掛けてこなかったような、大胆なアイデアを形にした商品も数多い。22年に店頭をにぎわせた代表格が、しいたけが嫌いな人でもつい食べたくなるスナック菓子「しいたけスナック」。22年12月は月間9000万円以上を売り上げた。テレビが映らないネット映像配信の視聴に特化した受像機「チューナーレススマートTV」は、累計1万5000台以上を販売した。
壁打ち会議でパッケージの長文コピーを磨き上げる
なぜリニューアル後の情熱価格に、消費者は心をわしづかみにされるのか。秘密は、常識破りの商品パッケージデザインに隠されている。どの商品にも特徴を説明する印象的な長文コピーがあしらわれているのだ。例えば前出の22年の年間売り上げトップの「素煎り ミックスナッツDX(デラックス)」の場合、半分近いスペースを割いて「ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率 食塩・油を使わないこだわり」とでかでかと書かれている。商品知識がなくても、ぱっと見た瞬間に心に刺さるようなメッセージをあしらい、通常なら大きく配置する商品名を脇役にしてしまうのがドンキ流だ。
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