リアルを変える「デジタルCX(顧客体験)」 第8回

「100%リサイクル」が確約されたランニングシューズのサブスクリプション(定額課金)サービスをご存じだろうか。スイスのブランド「On(オン)」が日本で2022年10月から始めた「Cyclon(サイクロン)」だ。完全循環型のサステナブルな仕組みに顧客を巻き込む極めて斬新なビジネスモデルの下、どのように顧客体験価値を向上させているのか。

「You're in the loop」(あなたは循環サイクルの中に)と書かれた返却袋。「Cyclon(サイクロン)」は、6カ月間履いたシューズをこの袋に入れて送り返し、届いた新品のシューズを使用することを繰り返す、斬新なサブスクモデルだ
「You're in the loop」(あなたは循環サイクルの中に)と書かれた返却袋。「Cyclon(サイクロン)」は、6カ月間履いたシューズをこの袋に入れて送り返し、届いた新品のシューズを使用することを繰り返す、斬新なサブスクモデルだ

 スイスの高機能ランニングシューズブランド「On」は2010年に立ち上がり、現在は世界60ヶ国以上で販売されている「世界で最も成長スピードの速いランニングブランド」といわれる。サステナブルへの関心も高く、リサイクル素材の採用などを積極的に進めてきた。

 そんなOnが、国内では22年10月から提供を始めたのが、Cyclonだ。月額3380円(税込み)で、最初にサブスク専用シューズの「Cloudneo(クラウドネオ)」が1足送られてくる。その後、6カ月ごとに新しいCloudneoとの交換をリクエストできる。

 ただし、Cyclonのすごさは「お得感」にはない。実際、6カ月使い倒して約2万円になるため、高機能シューズとしては平均的な水準だ。その最大の特徴は、Cloudneoがトウゴマの実など植物原料だけで作られており、100%リサイクル可能であること。サブスク会員が返却したシューズは、洗浄・粉砕などの工程を経て、また新しいCloudneoに生まれ変わる。「使用しているユーザー自身が、地球環境に優しい行動をできていると感じられるサブスクだ」とオン・ジャパン(横浜市)Ecom責任者の米川智之氏は語る。

 近年、サステナブルの潮流を受けて、米パタゴニアや仏バレンシアガといった有名ブランドがリユースサイトを立ち上げ、販売した商品の「その後」にも一定の責任を持つ動きが顕著になっている。当然、Onも米国では22年にリユースサイトとオンライン下取りプログラムを始めている。

 これらの取り組みから一歩進んでいるのが、Cyclonだ。サブスク限定シューズとすることで、「作る→使う→再利用する→作る→使う→再利用する……」という無限ループを確実なものとし、それに共感した顧客とつながり続ける。完全循環型でかつ交換可能とあって顧客は安心して使い倒すことができるから、ランニングに熱中する人たちが集うコミュニティーづくりの面でも優れた仕組みだ。つまり、Cyclonというビジネスモデル自体が、顧客体験価値を最大化する装置になっている。実際に、「サステナブルな一面に魅力を感じて利用しているユーザーは非常に多い」と米川氏は言う。

ブランド認知調査で分かった、顧客が抱える「2つの不安」

 しかし、Cyclonの顧客満足度を高めているのは、この先進的なビジネスモデルのみではない。約2年前に行ったブランド認知調査で判明した、顧客の商品購入への精神的ハードルに対して地道に対策を講じてきたことが、新規性のあるサービスを安心して利用してもらえる基盤となっている。

 ブランド認知調査では、Onで販売している全商品に対する顧客満足度を向上させるため、ブランドイメージやWebサイトでの離脱理由等について調べた。その結果、顧客が抱える「2つの不安」が浮かび上がった。

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