リアルを変える「デジタルCX(顧客体験)」 第6回

化粧品メーカーのオルビス(東京・品川)は自社アプリ内で、新サービス「肌カ.ル.テ」を開始した。チャットボット形式で、1年間にわたりその時々の肌の悩みに応じたスキンケアアドバイスが送られてくるのに加え、実際に店頭に立つビューティーアドバイザーにチャットで相談することもできる。徹底して顧客の悩みに伴走する同サービスは、オルビスのCX(顧客体験)戦略の要の1つでもある。キーワードは「人肌感」。その意味は?

オルビスは、CX戦略の要であるアプリをリニューアルした
オルビスは、CX戦略の要であるアプリをリニューアルした

 2018年のリブランディング以降、化粧品メーカーのオルビスはアプリを軸としたCX戦略を強化してきた。そして22年11月にアプリをリニューアル。アプリ内の新サービス「肌カ.ル.テ」を開始した。

 肌カ.ル.テは、日々変化する肌の悩みに伴走し、そのときに最適なスキンケアをアドバイスしてくれるサービスだ。まずは肌質に関する15の質問に回答。次に顔写真を撮影すると、その写真をAI(人工知能)が分析し、肌の乾燥度合いやシミができやすい位置を割り出してくれる。自分の肌状態を知った後は、「エイジングケア」「美白ケア」「ニキビケア」といった11種類のコースから、自分の肌の悩みに合ったものを選択。さらに悩みの深さや、どのくらいの深度でケアに取り組みたいかに応じて「かるく」「てきどに」「たっぷり」の3段階から選べ、その選択によってスキンケアアドバイスが変化する。

 コースを選択すると、3日に1度、あたかもユーザー専任の「ビューティークリエーター」が存在するかのように、スキンケアアドバイスが届く。驚くのは、このメッセージは約1年間にわたって送られることだ。当然ながら季節ごとや生活習慣の変化によっても肌の悩みは変わる。そのため肌カ.ル.テは、1カ月ごとに前述のAI分析をやり直すことを推奨しており、もちろん肌の悩みの変化によってコースの変更も可能だ。

 質問やAI分析からそのときの肌の状態に応じたアドバイスをするサービスは既にあるが、肌カ.ル.テが特徴的なのは年単位というロングスパンでユーザーに伴走すること。11種類と3段階のコース選択で、パーソナライズに近いアドバイスを受けられることも特徴だ。

スキンケアコースを選択すると、ビューティークリエーターからメッセージが届く
スキンケアコースを選択すると、ビューティークリエーターからメッセージが届く

 また、さらなるパーソナライズ機能として、平日10~17時は有人チャットでの相談もできる。応対するのは実際に店頭で接客を行っているオルビスのビューティーアドバイザーだ。チャット越しとはいえ対人で、相互にコミュニケーションを取りながら相談できることで、機械の分析だけでは拾いきれない感覚も合わせてアドバイスを受けられる。

 有人チャット以外でも、肌カ.ル.テを開発するにあたりビューティーアドバイザーの知見が至るところに生かされている。AI肌分析機能にしても、機械が画像解析するためには人間の知見を学習させなくてはいけない。また、例えば肌質分析のための15の質問は、「手のひらで頬を包んでそっと離すと、密着感をどの程度感じますか?」「手の甲でTゾーンや頬を触ってみましょう。どこのベタつきが気になりますか?」といった、ユーザーが実際にやってみた感触を聞く具体的なものだ。こうした質問も、ビューティーアドバイザーとともに考えていったという。

 これが店頭であれば、肌の状態を確かめるために専用のデバイスで水分量を計測することができる。しかしデバイスもなく、肌に関して素人のユーザーのみで判断しなくてはいけないアプリの場合、ビューティーアドバイザーが培ってきた経験則や肌に触れたときの感覚を、的確にテキスト化しなくてはならない。少しでも聞き方が分かりづらいと、ユーザーは経験則がないため判断がぶれてしまう。「経験則」や「感覚」といった、言語化することが難しいものをうまく落とし込むことは、至難の業だった。

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