
インターブランドジャパン(東京・渋谷)の「顧客体験価値(CX)ランキング2022」で1位を獲得した丸亀製麺。顧客データを駆使し、隠れたデータドリブン企業といえる。6年間、顧客推奨度を測るNPS(ネット・プロモーター・スコア)を使い、分析結果を店舗の改善活動などに活用しているという。同社は何のスコアを重視し、今後さらなる感動体験をどう向上させていくのか。
インターブランドジャパンが運営するC SpaceTokyoが2022年6月に発表した「顧客体験価値(CX)ランキング2022」で、1位を獲得した丸亀製麺。21年12月発表の同ランキングでは16位。その後、僅か半年でトップの座に上り詰めた。根本的な顧客体験価値である「おいしさ」を追求する飲食チェーンとしての姿に加え、顧客データを駆使するマーケティング巧者としての一面を併せ持つ。
CX企業ランキング1位と聞いて意外に思った人もいるかもしれないが、丸亀製麺が首位に躍り出たのはむしろ必然といえる。その理由を解説していこう。
トリドールホールディングス執⾏役員最高マーケティング責任者(CMO)で丸⻲製麺取締役マーケティング本部⻑の南雲克明⽒は「人の力とデジタルの力の融合、数字と感性の融合、これを“丸亀製麺らしく”やろうとしている。それを説明するために全部数字にしている」と語る。
月に約1200~1300万人が来店する丸亀製麺。膨大な顧客データを集め、分析。現場に共有し、高速で改善活動のPDCAを回す仕組みができている。
下図は、今回の取材で丸亀製麺が初公開したデータドリブンマーケティングモデルの「設計図」だ。新規層に関わるブランドイメージと、リピーター層のブランドイメージ(理性/感性)、顧客体験価値の大きく2軸でキー・サクセス・ファクター(KSF、重要成功要因)を定義。それに基づいたあらゆる調査を駆使し(図の下部)、顧客生涯価値(LTV)の向上と事業の持続的な成長を目指す。
南雲氏が「我々のマーケティングモデルの中で業績を上げるために非常に重要で、この6年間ずっと追っている」と語るのが、顧客推奨度(NPS)だ。「NPSが0.1ポイント上がれば、約830の店舗で客数が何人増え、売り上げが週当たり、月間、年間でどの程度上がるかまで試算できている。これを営業部と共有し、改善活動を実施している」(南雲氏)
NPSに加えて調査しているのが、品質・接客・清潔さ(QSC)、再来店意向など。全30問の顧客アンケートの中でも、改善活動に直結するのはQSC関連の設問だ。
「丸亀製麺の体験価値を分解すると、『QSC』×『店舗空間』×『ブランドらしさ』になる」と南雲氏。QSC関連の設問は、丸亀製麺の品質マニュアル「丸亀スタンダード」につながる設計になっており、見れば各店舗の改善点がすぐに分かる。逆に言えば、マニュアルに沿って店舗運営をしていれば、基本的にスコアは上がりやすい。
以下に顧客アンケートの項目例を記載する。
【顧客アンケートの設問事項例】
- 人にすすめる機会があったとして、あなたは当店のご利用を親しいご友人やご家族にどの程度すすめたいと思われますか?
- 商品の品質に対して、どの程度ご満足されましたか?
- 接客やサービスに関して、どの程度ご満足されましたか?
- 清潔さや衛生面に関して、どの程度ご満足されましたか?
- 当店のテイクアウト(お持ち帰り)は利用しやすかったですか?
~
- うどんはつるつるモチモチしておいしかったですか?
- うどんの味つけはちょうどよかったですか?
- うどんの温度は適正でしたか?
- 天ぷらの食感はサクサクでしたか?
~
- 入店時・退店時のあいさつは出来ていましたか?
- 従業員の対応は好感をもてましたか?
~
- 店内の床はきれいで、清潔感が感じられましたか?
- テーブルやイスはべたつきや汚れがなく、清潔感を感じられましたか?
など
アンケートの回答は、アプリや(うどん1杯の注文に対し、1枚配布される)うどん札のQRコードなどから得ており、集計数は月に約4万件だ。毎日自動的にデータベースへ追加され、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールのダッシュボードで可視化される。営業部ほか関連部署がいつでも確認でき、週次リポートで全体共有しているという。万が一、「イートインのNPSが大きく下がっている」など異常値が発生すれば、営業部長と確認。理由を解明し改善に努めている。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー