リアルを変える「デジタルCX(顧客体験)」 第1回

なぜスターバックスや丸亀製麺は顧客に愛されるのか。その背景にあるのが、「CX(カスタマーエクスペリエンス、顧客体験)」を重視したマーケティング戦略だ。先進企業はリアルとデジタルを交え、いかに新たなCXを創造しているのか。特集第1回では、取材を通して導き出した「CXを高める3つの要素」を解説していく。

(写真/Shutterstock)
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 CX(顧客体験)は古くて新しいキーワードだ。一般に、商品やサービスを購入する前段階から購入後まで、すべてのカスタマージャーニーにおける体験価値を指す。これまでのリアルな接点だけではなく、デジタルも活用してCXを向上し、顧客と感情的なつながりを深めていくことは、LTV(顧客生涯価値)の観点からもマーケターにとって最重要のテーマである。

 ところが、だ。企業のマーケティング支援会社で「KARTE(カルテ)」を提供するプレイドのCXストラテジスト、藤井陽平氏は、こんな課題感を持つ。「CX向上の取り組みは、リアルな接客などを改善する文脈か、企業のグロース(事業成長)視点か、どちらか一方だけで語られることが多い。本来は両立すべきなのに」

 前者の場合、確かに顧客体験はよくなるはずだが、ともすれば売り上げにつながらない“過剰な”おもてなしとなりかねない。一方、後者のグロース視点が強すぎると、「(サービスに満足しているであろう)既存顧客は3人以上のスタッフをフォローしてくれている」といった分析を基に、「スタッフ3人フォローキャンペーン」など顧客にとって無意味な施策を押しつけることになりがちだ。

 リアル店舗とデジタルマーケティングでは担当部署が違う――。当然ながら、そんな言い訳は通用しない。確かにリアル店舗やECサイト、アプリなど顧客とのタッチポイントは多様化し、複雑さは増している。だが、それらのデータを統合したり、利便性を向上させたりするDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める中で、本来は顧客の解像度が上がり、リアルでもデジタルでも、これまで以上によい体験を生み出せるはずだ。

 ところが、手段であるDXにまい進するあまり、その「目的」であるはずの顧客体験が忘れ去られていないだろうか。

 そんな問題意識は多くの現場から聞こえてくる。そこで本特集では、インターブランドジャパン(東京・渋谷)グループのC Spaceが発表した「顧客体験価値(CX)ランキング2022」で1位に輝いた丸亀製麺をはじめ、スターバックス コーヒー ジャパン(東京・品川)、「THE NORTH FACE」ブランドを擁するゴールドウイン、化粧品メーカーのオルビス(東京・品川)などの事例をひもとく。先進企業は、どのようにデジタルを活用して顧客体験を底上げしているのか。まずは、取材を通して導き出した「CXを高める3つの要素」を解説していこう。

◆CXを高める3つの要素◆

(1)重要データは「コンバージョン」より「プロセス」にあり
(2)デジタルで実現すべきは「機能価値」+「情緒価値」
(3)「顧客理解」がすべてではない。ステークホルダーにこそ注目

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 1つ目の要素は、「重要データは『コンバージョン』より『プロセス』にあり」というものだ。顧客体験を考えるときのよりどころとして、初回購入や2回目購入、会員登録など、さまざまなコンバージョンの数字だけに着目するのは危険だ。これらはあくまで「結果」にすぎず、喜んでもらうべき顧客像をあぶり出すものではない。

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