SNSで影響力のあるインフルエンサーに、自社の製品やサービスをPRしてもらう「インフルエンサーマーケティング」は、デジタルマーケティングの選択肢の一つとして定着した。しかし、単に「インフルエンサーを使って売る」というだけでは通用しなくなりつつある。マーケターが理解すべきなのは、インフルエンサーのファンが向いている“推しベクトル”とも呼ぶべき「共鳴」だ。ハナマルキ(長野県伊那市)と森永製菓の事例から、インフルエンサーが持つポテンシャルを最大限に引き出す方法を学ぶ。

インフルエンサーマーケティングを実施するうえで、インフルエンサーやアーティスト、クリエーターのファンが向いている“推しベクトル”とも呼ぶべき、お互いのブランドや世界観に対する「共鳴」が重要になっている(写真/Shutterstock)
インフルエンサーマーケティングを実施するうえで、インフルエンサーやアーティスト、クリエーターのファンが向いている“推しベクトル”とも呼ぶべき、お互いのブランドや世界観に対する「共鳴」が重要になっている(写真/Shutterstock)

 本連載の第1回で、意図的に“バズらせる”という企業目線の発想は、消費者に見破られるようになっているとお伝えした。広告であることを隠して、インフルエンサーに商品をPRしてもらう「ステルスマーケティング」も、通称「ステマ」として消費者にも認知が広がっている。近年、マーケティングの重要キーワードに「オーセンティシティー(本物であること)」が求められるようになってきている。

▼第1回はこちら ユーザー発の「自然なバズり」どう生み出す? SNSマーケの新潮流

 インフルエンサーマーケティングを実施する際、単にフォロワー数だけを基準に選定していては、いかにも「企業の広告だ」と消費者に違和感を持たれてしまう。そう感じさせないためには、起用するインフルエンサーやアーティストのことをマーケターがよく理解しなければならない。それを象徴する事例として、みそ・醸造品大手のハナマルキが実施した、Z世代を中心に人気の音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。(ずとまよ)」とのコラボレーション企画は好例だ。

 ハナマルキは2022年3月1日、ずとまよと共同で即席みそ汁「すぐ旨カップみそ汁 揚げなす生姜風味 限定ニラ入り(以下、すぐ旨ニラ入り)」を開発した。すぐ旨ニラ入りのパッケージは、ずとまよのミュージックビデオに登場するキャラクター「にらちゃん」を中心にデザインし、ニラ入りのみそ汁とした。

ハナマルキは2022年3月1日、音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。(ずとまよ)」と共同で、即席みそ汁「すぐ旨カップみそ汁 揚げなす生姜風味 限定ニラ入り(以下、すぐ旨ニラ入り)」を開発した
ハナマルキは2022年3月1日、音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。(ずとまよ)」と共同で、即席みそ汁「すぐ旨カップみそ汁 揚げなす生姜風味 限定ニラ入り(以下、すぐ旨ニラ入り)」を開発した

 このプロモーションのために、テレビゲーム風にアレンジしたずとまよの曲で構成した1分24秒のオリジナルのミュージックビデオを制作し、ずとまよのYouTubeチャンネルで公開。この動画は41万回再生、2.4万のいいねが寄せられている(23年2月24日時点)。すぐ旨ニラ入りは、22年4月16日と17日にさいたまスーパーアリーナで開催した、ずとまよの単独ライブの来場者約3万5000人に配布した他、アーティストの公式ECサイトで抽選販売した。

 ファンを中心にこれだけ話題になった商品を、ハナマルキは一般発売しなかった。その狙いについて、ハナマルキ取締役マーケティング部長兼広報宣伝室長の平田伸行氏は日経クロストレンドの取材で「そのほうが印象に残るはず。目的は、ハナマルキとスグ旨カップみそ汁の認知を高めること。ずとまよファンを中心にSNSで拡散されることで、幅広い層への波及も期待している」と語っている。

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 「一般発売がない=売り上げが主目的ではない」ということから、ファン側からすれば「“ずとまよ”のために、ここまでハナマルキはやってくれるのか!」と感じたのではないだろうか。これが意図的かはさておき、こうした行為には心理学でいうところの「返報性の原理」が働く。これは、他者から何らかの施しを受けたときに、お返しをしたいという心理が働く原理だ。

 では、なぜハナマルキは、ずとまよとコラボしようと考えたのか。記事ではずとまよとのコラボレーションは、「(メンバーの)ACAねが、日ごろからスグ旨カップみそ汁を飲んでいる」という情報を得たことから始まったと明かされている。つまり、アーティスト自身がハナマルキの商品を日ごろから喫食していたという事実が発端だ。この「アーティストの態度や言葉にうそがない」ということが、とても大事なポイントとなる。自分の「推し」が本当に好きだという事実にこそ、共感が生まれるのだ。

キャラクターの趣味を把握した森永製菓のコラボ

 森永製菓が22年1月31日からバレンタインデーに合わせて実施した、同社のチョコレート「ダース」とバンダイナムコエンターテインメントのゲーム「アイドルマスター シャイニーカラーズ(以下、シャニマス)」とでコラボした企画にも、ハナマルキと似た点がある。

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