SNSなどを通じて情報を拡散し、多くの人の耳目を集めてちまたを席巻する――。「バズらせるコンテンツ」というのが一時期、デジタルマーケティング業界ではやった。しかし、SNS慣れした消費者のコンテンツを見る目が肥えたことで、「バズらせる」という企業意図は見破られやすくなっている。マーケターはそうした古い発想から、顧客が話題にしたくなる「場」を設計する力が求められるようになってきている。

マーケターはコンテンツを「バズらせる」という発想から脱却し、顧客を巻き込む設計が必要になっている(写真/Shutterstock)
マーケターはコンテンツを「バズらせる」という発想から脱却し、顧客を巻き込む設計が必要になっている(写真/Shutterstock)

 ここ数年で、マーケティングにおけるSNSで「バズる」ことの意味が大きく様変わりしている。従来は、SNSで話題になるような動画コンテンツなどをつくり、企業が意図的にバズらせようとする施策が中心だった。そのため、コンテンツそのものが話題となることが多かった。企業からの一方的な情報発信を軸としたバズりは、ネットを活用していながら、テレビCMに代表されるマスマーケティングに極めて近い取り組みだったといえる。「バズれば売れる」という発想の下、受けるコンテンツをつくろうと躍起になっているマーケターも多いだろう。

 だが、これから紹介する2つのSNSでバズった事例は、いずれも企業の一方的な情報発信だけで話題が広がったわけではない。現在の「バズる」は、企業の一連の仕掛けはあるものの、消費者に自発的に参加してもらうための一歩引いた“余白のあるコミュニケーション設計”によって、消費者を巻き込む形で話題になっている。バズりの中心はコンテンツではなく消費者だ。よりネットらしい、インタラクティブな仕掛けが重要性を増している。

 まず、1つ目に紹介する事例は、動物のキャラクターを題材にした漫画「ちいかわ」だ。イラストレーターのナガノ氏がTwitterに投稿していた漫画が発祥で、それをまとめた単行本が出版されると徐々にファンが増えていった。その傾向を決定的にしたのは、2022年4月のテレビアニメ化だ。放映が始まると、人気に火がついた。日経トレンディが選ぶ「2022年ヒット商品ランキングベスト30」の2位に選ばれた。

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 「ちいかわ」の魅力は、なんといっても魅力あふれるキャラクターたちだ。かわいい見た目とは裏腹に、人生の厳しさ、ささやかな暮らし、けなげに生きる姿などが描かれている。その登場キャラクターたちに、多くの人が共感した。

 TwitterなどのSNSでは、登場キャラクターの「ハチワレ」の口癖である「〇〇ってコト!?」をはじめ、「ちいかわ構文」と呼ばれる独特な言葉遣いやフレーズを「まねる」人が続出した。そして、Twitter上で頻繁に使用されたフレーズからランキングをつける「SNS流行語大賞2022」(イー・ガーディアン調べ)では、累計270万回以上つぶやかれた「〇〇ってコト!?」が大賞に輝いた。

 これほどの大ブームは、自然発生的にユーザーがSNSで盛り上がったことが要因の1つだった。

思わず検証したくなったファミマの「40%増量」作戦

 2つ目の事例は 企業としてSNSで自然発生的な盛り上がりを生み出し、販促にうまく生かしたのがファミリーマートだ。同社が22年8月に実施したキャンペーン「お値段そのまま!! 40%増量作戦」はSNSで大きな話題を呼んだ。

ファミリーマートは22年8月に、対象商品を40%増量するキャンペーンを実施した
ファミリーマートは22年8月に、対象商品を40%増量するキャンペーンを実施した

 このキャンペーンは、ファミリーマートの人気商品を値段はそのままに40%増量するという企画。同社CMO(最高マーケティング責任者)の足立光氏は「改めて定番商品に目を向け、手に取ってもらうのが狙い」だと、インタビューで語っている。ポイントは、「40%をはるかに超える増量をしている商品もある」という点にある。

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