スマートフォンやパソコンの画面に絶え間なく表示される広告に、嫌悪感を持つ消費者も少なくありません。広告ブロッカーにお金を払ってでも広告を避ける人もいる状況で、果たして従来の「マーケティング」や「広告」に、どのような意味があるのでしょうか? マスターカードを世界的ブランドに押し上げ、『フォーブス』誌の「世界で最も影響があるCMO(最高マーケティング責任者)」の1人にも選ばれたラジャ・ラジャマナー氏による著書『クオンタムマーケティング 「プライスレス」で世界的ブランドを育てたCMOが教える最新マーケティング論』から一部を抜粋し、これからのマーケターやビジネスパーソンが持つべき新しい視点を紹介します。今回はマーケターが今後身に付けておかなくてはいけない技術について。
これから活躍するマーケターには、21の要素が必要だと考えている。そのうち、今回は5番目と6番目を紹介しよう。
つまり、マーケターは、データ、テクノロジーそしてAIを理解し、扱える必要がある。
あれもこれも「データ化」した「センサー」
新たに出現したものすごい数のテクノロジーによって、消費者生活の変質が(良くも悪くも)急速に進んでいる。
消費者の様子は変化し、マーケターは新しいパラダイムの潮流を踏まえてマーケティングのアプローチそのものを考え直す必要に迫られた。失敗が急激に拡大される一方で、成功は人間の注意力と同じぐらい長続きしなくなった。
この時代に次々と現れている驚くべきテクノロジーの風景として、あらゆる種類のセンサーがある。センサーは消費者の日常生活に浸透しはじめた。IoT(コネクテッド家電、例えば冷蔵庫、洗濯機、食器洗い機、家庭用サーモスタット、その他もろもろ)からウエアラブル端末(スマートウオッチ、スマートリング、フィットネストラッカー)、スマートスピーカー、デジタルアシスタント、コネクテッドカー(インターネットに常時接続できる端末としての機能を持つ自動車)にいたるまで、さまざまだ。
これらのセンサーが、消費者の文字どおりすべての呼吸、動き、感情、振る舞いから、かつてないほど膨大な量のデータを取り込んでいる。量子的(クオンタム)に急増したこれらのデータの活用法が分かるマーケターなら、そこから素晴らしいインサイトを引き出し、驚異的なレベルにまでキャンペーン効果を押し上げ、顧客との絆を強化できるだろう。
マーケティングツールの超新星、「AI」の進化
センサーと同じく、AIは競合との差異化の大きな要素になる。単純な消費者調査から複雑な予測解析にいたるまで、過去にデータをどれほど活用していようが、AIにかかれば子どもだましに見えてしまうほどだ。
無数のソースから絶え間なく上がってくる各種の膨大なデータを眺め、意味を見つけ、思いもよらなかったほど強力かつ実行可能なインサイトを導き出すのだ。
何よりすごいのは、それらのインサイトがリアルタイムで手に入ることだ。そのため、実行までに時間差がまったくないか、ほぼない状態で、しかも最大のインパクトを与えられる。そのインパクト自体もリアルタイムで計測可能なので、最適化まで一気にリアルタイムで進めてしまう。それがこれからのマーケティング、クオンタム・マーケティングの主な特徴である。
また別の次元では、AIが広告コンテンツの制作方法を根底から変える。既存のリソースやプロセスを補完するどころか、強力なパワーとスピードを持つAI自ら制作機能を代替できてしまう。
まとめると、AIがあれば、マーケターはマーケティングのライフサイクルの各段階で起こるすべてを正確に把握し、意味を理解し、それに基づいて効果の高い施策を実行できる。
最新技術があふれるこれからの時代でマーケターが生き延びるカギとは?
これから想像を超える各種の新テクノロジーが出現し、データ量は桁外れに増加し、生活のあらゆる瞬間で消費者にアクセスできるようになる。そして、リアルタイムで施策を打つチャンス、あるいは脅威が生まれ、購買ファネルやその他の古典的理論や枠組みが崩壊する。マーケターにとって、これまでとはまったく違う新世界に感じられるだろう。
そして、これらすべてがマーケティングのありさまを根本から変えてしまうので、マーケターはその戦略、構造、能力についての再考を余儀なくされる。
この時代を生き延び、業績を伸ばすために、マーケターに求められるのは、「偏見を持たずに、広い心を持つこと」と、「テクノロジーへの精通」だ。つまり、マーケターには、テクノロジーやアプリケーションについて理解し、使いこなすことが急務なのだ。
(訳:三宅康雄)
1人が1日に受ける広告メッセージの数は、平均3000から5000のあいだです。多過ぎる情報の中で、果たして“マーケティング”は本当にいまの消費者に刺さるのでしょうか? 多感覚ブランディングというクオンタム・マーケティングの考え方は、今後マーケターやビジネスパーソンが知っておきたいものです。『フォーブス』誌で「世界で最も影響力のあるCMO(最高マーケティング責任者)」にも選ばれたマスターカードのラジャマナーCMOが、歴史、最新技術、神経科学などから新時代のマーケティングを解説します。世界第一線で活躍するマーケターから「超実践的なマーケティング手法」を学びましょう。
ラジャ・ラジャマナー(著)、三宅康雄(訳)/日経BP/2420円(税込み)