スマートフォンやパソコンの画面に絶え間なく表示される広告に、嫌悪感を持つ消費者も少なくありません。広告ブロッカーにお金を払ってでも広告を避ける人もいる状況で、果たして従来の「マーケティング」や「広告」に、どのような意味があるのでしょうか? マスターカードを世界的ブランドに押し上げ、『フォーブス』誌の「世界で最も影響があるCMO(最高マーケティング責任者)」の1人にも選ばれたラジャ・ラジャマナー氏の著書『クオンタムマーケティング 「プライスレス」で世界的ブランドを育てたCMOが教える最新マーケティング論』から一部を抜粋し、これからのマーケターやビジネスパーソンが持つべき新しい視点を紹介します。今回は、「右脳」と「左脳」を駆使することの重要性について。

日経BOOKプラス 2023年1月10日付の記事を転載
▼関連書籍(クリックで別サイトへ) 『クオンタムマーケティング 「プライスレス」で世界的ブランドを育てたCMOが教える最新マーケティング論』

世界トップマーケターが真っ先に挙げたマーケターの必須要素

 マーケティングにはビジネスの勢いを強烈に加速し、企業に著しい競争優位性をもたらす力がある。つまり、マーケティングこそ真の「戦力倍増機能」なのだ。マーケターにとって重要なのは、CEO(最高経営責任者)や他の上級幹部に対して、マーケティングがビジネスにもたらせるもの、会社のために発揮できる価値を実証することだ。

 そうすることで社内からマーケティング機能にはっきりとした期待が寄せられ、それを発揮できるような力が与えられれば、大きな、有益な効果を生むだろう。

 そのためにも、マーケターは新しい時代のCMOにもつながる21の要素を持つべきである。その一つ目の要素が

1. クオンタムCMOとはレオナルド・ダ・ヴィンチのようなものだ。多面的で多才で、美術、科学、マーケティングテクノロジーの分野で秀でている。右脳と左脳を両方とも使え、創造性と分析力に優れている。

である。

多くのマーケターはここ30年の進化に追い付けていない

 そもそもマーケティングには右脳と左脳の両方が必要だった。実際、マーケティングは志に燃える若者がその「創造性」と「分析力」の両方を巧みに融合し、市場でそのアイデアがかたちになった様子を目にすることができる、おそらく唯一の分野だったのだ!

 しかし、過去30年のあいだに、何かが起こった。いったい、何が起こったのだろうか?

 まず、モバイルテクノロジーの爆発的な進歩、インターネットの普及、そしてSNSの存在がある。言い換えれば、マーケターは、テクノロジーとデータ分野での劇的な進化についていけなかった。

 多くの場合、マーケターはクリエイティブ領域に偏った仕事をし、自らの役割をアナリティクスや量的な側面よりもクリエイティブな側面に定めていた。そのため、マーケティングの芸術的で美的、デザイン的な側面は大きく進化した。そこにデータとテクノロジーが怒濤(どとう)の勢いでマーケターに迫ってきた。

 伝統的に、マーケターはテクノロジーにさほど精通していなかったし、データにも精通していなかった。だからこそ古典的なマーケターの仕事は、あっという間にテクノロジストという新種の専門家に取って代わられた。

 彼らはマーケティングの深い海に飛び込んで、そこに未開拓で活用されないままの可能性が広がっていることに気が付いた。真のデジタルマーケティングが誕生し、保守的なマーケターの視界には入っていなかったペース、プロセス、方法論の策定が始まった。

 こうして2種類のマーケターが生まれ、そのあいだに大きな溝が生じた。

元来、マーケターは右脳と左脳の融合が必須だった(写真:Shutterstock)
元来、マーケターは右脳と左脳の融合が必須だった(写真:Shutterstock)

伝統的なマーケター vs. 今どきのマーケター

 一方に、保守的なマーケターがいる。彼らは4P(プライス、プレイス、プロダクト、プロモーション)、ポジショニング、購買ファネル、その他マーケティングのあらゆる詳細かつ基礎的な部分を熟知している。

 そしてもう一方に、新しい種類の現代的なマーケターがいる。彼らにとっては、データ、テクノロジー、実験とテスト、高度に自動化されたプログラマティックなオペレーションがすべてであり、マーケティングの基礎的な要件にはほとんど関心を示さない。

 今日でさえ、もしも保守的なマーケターにプログラマティック広告の技術的な仕組みや、特定のデジタルテクノロジーの内側でどんなことが起こっているのかを尋ねても、彼らは表面的な知識を持っているのがせいぜいで、多少深く突っ込んで聞けば、もうお手上げになってしまうだろう。

 このようにマーケターたちには、それぞれ異なる能力や強みが備わっている。古典的なマーケター、現代のマーケター、その2種類に追加してパフォーマンス・マーケター、そしてマーケティング・イノベーター。企業は、これら4種のすべてを効果的に組み合わせるべきだ。

 異なる者同士が互いに影響を与え合い、教え合うことによって、定性的マーケティング、定量的マーケティング、パフォーマンス・マーケティング、マーケティングのプロセスマネジメント、マーケティングで起こるイノベーションといった複数の領域を横断した業務の遂行が可能になる。そして、一つひとつの機能が、企業をより際立たせる。

 今後マーケティングは、確実にその複雑さを増していく。そうである以上、素早くかつ効果的に動くため、マーケティングがすべての領域にまたがって深く関与していかなければならない。また、マーケターにとっては、自分の役割と職能にしっかりと向き合うためにも、十分な装備を持っておくべきときになる。

時代遅れになりたくないマーケターがすべき「努力」とは

 つまり、現代のマーケターはもはやマーケティングだけのスペシャリストではいられない。

 未来を生き抜くマーケターであるクオンタム・マーケターには 、データ、デジタルテクノロジー、コミュニケーション、PR、販売、ビジネスの動向、企業財務、成長の推進力、その他さまざまな領域に関する十分な理解が求められる。

 言い換えれば、クオンタム・マーケターはマーケティングの専門家として優れた能力を発揮するというよりも、マーケティングに関する深い知識を持ち、かつ多様な領域に対応できるゼネラルマネジャーであるべきだ。ビジネスマネジャーとしての思考を持ちながら、マーケティングのあらゆる側面に対して深い理解と強い興味を持っている必要がある。

 また、チームメンバーに対して、既成概念にとらわれず、大きな構えで物事を考えられるような刺激を与え、必要に応じて彼らを先導する必要がある。

 私が新しい時代のマーケターとして定義する21の要素の中の一つには、以下のようなポイントがある。

11. 新しい時代に会社の方向性を導くリーダーであるクオンタムCMOは、大いなる好奇心と俊敏さを備えている。また、クオンタムCMOは、ごく初期のマーケティング・パラダイムに縛られない。時代遅れにならないよう、あらゆる変化に対応する。自ら学びつづけ、最新情報、大きな動きを吸収し、つねに最先端の知識を持っている。定期的に時間を割いて新しい情報を読み、特定分野の専門家に教えを請い、潜在的な応用分野に関する白書を読む、といった努力を欠かさない。

 次回から実際にマーケターが学ぶべきことを取り上げていく。

(訳:三宅康雄)

世界中のビジネススクールで学ばれ、11カ国で翻訳

1人が1日に受ける広告メッセージの数は、平均3000から5000のあいだです。多過ぎる情報の中で、果たして“マーケティング”は本当にいまの消費者に刺さるのでしょうか? 多感覚ブランディングというクオンタム・マーケティングの考え方は、今後マーケターやビジネスパーソンが知っておきたいものです。『フォーブス』誌で「世界で最も影響力のあるCMO(最高マーケティング責任者)」にも選ばれたマスターカードのラジャマナーCMOが、歴史、最新技術、神経科学などから新時代のマーケティングを解説します。世界第一線で活躍するマーケターから「超実践的なマーケティング手法」を学びましょう。

ラジャ・ラジャマナー(著)、三宅康雄(訳)/日経BP/2420円(税込み)
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