※日経エンタテインメント! 2023年1月号の記事を加筆、再構成

2022年10月からHuluで配信されている1話5分の『今日、ドイツ村は光らない』と、長澤まさみ主演のドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』のスピンオフとしてTverで配信されている『8人はテレビを見ない』。この2本の配信作品に出演している「ダウ90000」は、日本大学芸術学部出身のメンバーを中心とした、平均年齢24歳という8人組だ。20年9月、まさに新型コロナウイルス禍まっただ中に結成した彼らは、演劇にお笑い、そしてドラマと枠にとらわれない活動で業界からも注目を集めており、22年10月の第4回演劇公演『いちおう捨てるけどとっておく』は18ステージ分のチケットが販売開始10分で完売するほどの人気になっている。

 主宰で前述の2作の脚本も手掛け、そして俳優としても活躍するのが25歳の蓮見翔。Z世代のクリエーターとして、定額制動画配信サービス(SVOD)をどのように捉えているかを聞くと、その手軽さに対するプラスとマイナスの答えが返ってきた。

「ダウ90000」主宰の蓮見翔(写真/藤本和史)
「ダウ90000」主宰の蓮見翔(写真/藤本和史)

 ドラマを書くようになってから、かつての名作をSVODで見ることが増えています。FODやParavi、Huluは傑作ドラマのアーカイブみたいですよね。大好きな坂元裕二作品などを簡単に見られるので助かっています。最近見て印象に残ったのは、2020年に放送された『死にたい夜にかぎって』という1話30分のドラマ。賀来賢人さん演じるさえない男がいろんな女性に振り回される話で、原作があるんですけど、この作品の世界観が自分の書いているものと遠からず近からずという感じで面白かったですね。

 個人的な楽しみで見るときはもっぱらお笑いです。Prime Videoで『ドキュメンタル』を見たり。『M-1 グランプリ』は敗者復活戦から見られるんですよ。実は大学時代、TSUTAYAでバイトしていて、『M-1』を借りて帰るのが日課でした。それが今はサブスクで見られるんだから、最高ですよ。おかげで毎晩『M-1』が見られる。配信って、レンタルビデオ店が手元にある感覚ですね。

簡単にやめられないものを

 見て面白くないと思ったら、そこで簡単にやめられるのもSVODの特徴ですよね。レンタルビデオだとそうはいかない。借りた以上は全部見なくちゃと思うから(笑)。そういう意味ではSVODは見る時のハードルの高さを下げてくれたと思います。

 ただ、作り手の立場になると微妙なんです。作品に対してそんなに真摯に向き合わなくてもいい感じになりかねない。そうあっさりとつまらないと思われたら困るというか寂しいし。演劇だったら、始まったら終わるまで劇場を出られないということはあるけど、そうじゃないので。ただ、だからと言って逃げたくはないと思っています。簡単にやめられないものを作らないといけないですね。

 22年9月、初めての冠ドラマ『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』に挑んだ。俳優・勝村政信を迎えてのコメディーで、1時間ドラマの脚本を書き下ろしたのは初めてだったという(現在、FODで配信中)。続く『ドイツ村~』は1話5分の連続ドラマ、『8人~』は地上波ドラマのスピンオフと、多種多様なフォーマットを手掛けられるのもSVODならでは。改めて舞台とは異なる、映像ならではの特徴が気になったという。

 『今日、ドイツ村は光らない』は『深夜1時~』の直後に臨んだのですが、1話5分(全15話)というのはコントに近い感覚でした。ただ15話全体で完結する話にしながら、5分に1度、ヤマ場を作るのが大変で(笑)。スマートフォンで見たときのことも考えました。僕たちは会話劇なので、背景がきれいじゃないと退屈されちゃうんじゃないかと。緑豊かでヌケのある屋外を舞台にしたのは、それも関係しています。

ダウ90000の8人と俳優の小関裕太(左から5人目)が出演した配信ドラマ『今日、ドイツ村は光らない』。イルミネーションを最大の目玉とする東京ドイツ村の「イルミネーションが始まる前日」という1年で一番暇な日を舞台に、9人の男女が抱える「ややこしい事情」をコミカルかつ温かく描く。『今日、ドイツ村は光らない』Huluで独占配信中 (C)NTV
ダウ90000の8人と俳優の小関裕太(左から5人目)が出演した配信ドラマ『今日、ドイツ村は光らない』。イルミネーションを最大の目玉とする東京ドイツ村の「イルミネーションが始まる前日」という1年で一番暇な日を舞台に、9人の男女が抱える「ややこしい事情」をコミカルかつ温かく描く。『今日、ドイツ村は光らない』Huluで独占配信中 (C)NTV

 『エルピス~』のスピンオフ『8人はテレビを見ない』は、都内某所のシェアハウスで暮らす8人男女の姿を描いたので、8人で焼き肉の鉄板を囲むシーンなどあるんです。両端にいる者同士が話すようなコントは、うまく1つのカットに収まらない。見やすさを取るかウケを取るかでいつも悩みます。

「劇団」と名乗らない理由

 結成から3年目。コロナ禍の中、配信をプラスに捉え活用して、エンタ界のメインストリームに上がってきたダウ90000。このような新しい才能を最前線に登用できるのもSVODの強みだろう。

 結成は20年9月、僕らは大学の演劇サークルから始まっています。ただ自分たちでは劇団とは名乗っていません。僕は演劇よりお笑いが好きで、コントもやりたかった。劇団と名乗ってしまうと「劇団の人がやってるコント」と見られてしまうのが嫌だったんです。だから枕ことばを聞かれると「8人組」と答えています。ダウ90000という名前にも特に意味がなくて。5桁の数字を名前にしている人はあんまりいないので、それにゴロがよい言葉をつけてみた。意味がなくて説明できないのがいいと思ってつけたのに、結局、取材の度に説明しています(笑)。

 僕たちは結成した時からコロナ禍でした。コントライブも急きょ配信の形になった。でもそのチケットが売れたので手応えを感じたところもありました。21年にM-1グランプリに挑戦して準々決勝まで行けたり、21年9月の公演『旅館じゃないんだからさ』が岸田國士戯曲賞の最終候補に残ったりしたことも僕らのことを知ってもらうきっかけにはなったと思います。

 23年5月には下北沢の本多劇場で公演が決まっています。結成した時にやりたいと思っていたことをほぼ全部実現してしまったので本多劇場が終わった後、何をやればいいのかなと思います(笑)。活動を始めた時、僕以外のメンバーはまだ学生だったから、早いうちに結果が出ないと心が折れちゃうだろうなと思っていました。でもここまで、早くいい結果が出るとは考えもしませんでした。

 うまくいった理由の1つは、僕らが演劇だけをやっているわけじゃないからだと思います。演劇を芸術と捉える人も多いですが、それだと普通の人にはハードルが高い。だから、お笑いと演劇を半々混ぜてやろうと思ったんです。その結果、最初はお笑いが好きなお客さんが多かったけれど、話題になったら演劇が好きなお客さんも来てくれるようになった。その順番でやったのが良かったんだと思います。

 22年、蓮見はドラマ2本、スピンオフドラマ1本、演劇2本、単独コントライブ6本を手掛けた。

 22年はびっくりするくらいの量を書きましたね。一昨年の11月まではバイトで酒屋の配達をしていたのに(笑)。振り返ると自分としてはコントの単独ライブが6本できたことがうれしかったです。メンバーたちは役者志望なので、『深夜1時の内風呂で』で勝村政信さんと共演できたことはものすごく大きなことでした。みんな演技がぐんと成長したし、意識も変わりました。

 その直後に臨んだのが配信の『今日、ドイツ村は光らない』です。1話5分で全15話。作り方はコントに近い感覚でした。「配信だから」と意識したことは特にないんですが、カット割りは気になりましたね。舞台では、お客さんは好き勝手にあちこちを見るじゃないですか。『ドイツ村』でもそう見てもらいたかったんですけど、映像だとちょっとカメラが寄ると「ここが面白くなりますよ」とネタばらしをしているような気になる。次に配信に関わる時は、一つ一つのセリフをもう少しゆっくりしゃべってもらうようにするなり、そのあたりの編集を工夫していきたいです。

 コロナ禍に結成した僕らは、お客さんは舞台ができないから配信を見るんだと思っていました。

 でも、テレビに出ると、地方に住んでいるメンバーの家族にも喜んでもらえるんですよ。なのでライブ配信も、劇場に来たくても来られないから配信でという人が多いことにも改めて気づきました。そういったお客さんにも、僕たちの舞台の魅力、俳優1人ひとりの個性が伝わるように、舞台と同じように、意識的に配信を手掛けていきたいと思っています。ただ僕たちは8人組なので、両端にいる人同士が話すみたいなコントは配信だと難しいんです。見やすさを取るかウケを取るかはいつも悩みますね。

若い世代しか気づけない誰もが面白いものを

 結成してわずか3年で、1話5分の配信ドラマから、100分の演劇に、コントなどこれほど尺も違えばフォーマットも違う作品を出している人は珍しい。今後どんな活動を続けていこうと考えているのだろうか。

 僕自身は最終的にダウ90000として、劇場で年に1回ずつ、コント6~7本演じるライブと100分の演劇をやるというルーティンができれば、あとはみんなが何をしてもいいって思っています。いろんな人から「朝ドラやれればいいね」とか「大河やれれば……」など「こういうのやれたらいいね」と言われます。やれたらうれしいけど、でも、今の僕の中では、「大変じゃなかったらいい」というのが勝つんです(笑)。月々生活できるお給料をもらえたらいいぐらいの感じなんです。

 コントを書きたくなるときは早く人前にその作品を出したいという衝動に駆られる。ドラマの真面目なシーンを書くことも楽しいんですが、自分から書き始めようという衝動はない。そもそも僕は人に感動を伝えたいと思ったことがないんです。だから、コメディーしか書きたくないときに、連ドラで真面目なものを書いたら、メッキが剥がれちゃうんじゃないかと……。

 昨年、東京03さんのラジオ番組でコントの脚本を書きました。ダウ90000向けだと、同世代だから設定が限られちゃうんです。でも、03さんのときはおじさん設定のコントができる。そういうダウではできない設定のコントとかやってみたいし、書いていきたいです。おじさんが分からないことが書けている自信はあるし、それが、おじさんたちに評価されていることがものすごくうれしい。今の自分でしか書けないものを書きたいと思います。若い世代しか気づけないけど、でも世に出たら誰もが面白いと思うものを探していきたいし、誰よりも先に気づきたいと思っています。

蓮見翔(はすみ・しょう)
1997年4月8日生まれ。東京都出身。ダウ90000主宰、俳優、脚本家、演出家。2020年9月、日本大学芸術学部出身のメンバーを中心に、演劇、お笑い、コント、ドラマなど枠にとらわれない活動をする男女8人組の「ダウ90000」を結成する。「M-1グランプリ2021」の準々決勝に進出。21年第2回本公演「旅館じゃないんだからさ」で、岸田國士戯曲賞の最終ノミネートにも残った
3
この記事をいいね!する