※日経エンタテインメント! 2023年1月号の記事を再構成
大きな賞レースのたびに有能な新顔が登場するお笑い界。2022年は、ランジャタイの存在が広く世間に知れ渡った。結成14年で初めて決勝に進出した21年の『M-1グランプリ』で、ネコに頭の中のコックピットを支配されるというキテレツな漫才を披露。結果は10位だったが大きなインパクトを残した。この『M-1』を機にメディア露出が急増し、バラエティにも引っ張りだこに。小規模のインディーズライブを中心に活動する“地下芸人”の代表格だった彼ら。本格ブレイクしたこの1年では、どのような変化を感じたか。
国崎 いいペースで仕事できましたね。何も変わらなかった気がします。そんな忙しくもなかったし。
伊藤 いや、忙しかったですよ(笑)。増えました、バラエティ出演とか。22年はそうですね、僕の角刈りでスタートした感じです(※)。『相席食堂』(ABCテレビ)の。
国崎 あれ、楽しかったな。親や実家が違うとか、本当はロケ企画でご法度なんでしょうけど(笑)。でも、スタッフさんに説明したら「やりましょう」って乗ってくれて。ありがたかったです。
伊藤 角刈りだけ本当で、それ以外は全部嘘っていう。角刈りの模様はYouTubeにも出して、反響ありましたね。それからはずっとカツラを被って。
国崎 放送まで2カ月くらいあったんですけど、あまりバレなかったですね。見取り図のリリーと、(元)コウテイの下田(真生)だけは、一目で気がつきました。「それヅラやろ!」みたいな。鋭かったです。まぁ、『M-1』のあとはバラエティにちょいちょい出られて。『ダウンタウンDX(デラックス)』(ytv・日テレ系)とか、そういう“ザ・一周”みたいなのを体験…あれ? 『DX』だけか(笑)。
伊藤 『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジ系)とかネタ番組はありつつ。『さんまのお笑い向上委員会』(フジ系)も出たよ。
国崎 あと『マルコポロリ!』(カンテレ)とか。でも今考えたら、『踊る!さんま御殿!!』(日テレ系)も、『徹子さんの部屋(=徹子の部屋)』(テレ朝系)もまだですね。
伊藤 全然一周してない(笑)。まだまだこれからです。
『DX』では「♪松ちゃん浜ちゃん、松ちゃん浜ちゃん~」、『向上委員会』では「♪陣ちゃん陣ちゃん陣ちゃん(陣内智則)」という、段ボールで作ったお面のネタを披露し、反響を得た。バラエティのスタジオの空気を一気につかむ瞬発力があるのも、彼らの魅力。
国崎 たくさん出させてもらったけど、錦鯉さんがいたりとか、ほぼ芸人との共演ですね。
伊藤 『M-1』の決勝メンバーが多いよね。
国崎 22年は、モグライダーとは本当によく会ってたなぁ。真空ジェシカも。地下ライブから地上のテレビに上がってきたら、そのまま友達がいた(笑)。共演者でアーティストさんがいたら「うわー」とか、きれいな女優さんがいたら「すげー」ってなると思うんですが、ともしげさんとかだから、「またか」みたいな感じで(笑)。
伊藤 でもやっぱり、うれしいこともありました。昔お世話になっていた、7年前に解散した浜口浜村さんっていう芸人さんとツーマンライブができたんですよ。
国崎 たぶん、当時1番しゃべってた先輩だったんだよね。
伊藤 「やりませんか?」みたいにこっちからお願いして。それは『M-1』の決勝に行っていなかったら実現しなかっただろうから。
国崎 10月からは、『ランジャタイのがんばれ地上波!』(テレ朝)っていう番組が始まって。僕らも提案しながら、好きなことができる感じ。これまでお世話になった方とか、この番組に呼べるだろうから、恩返ししたいです。
伊藤 でも、これまで信じられない人が出ていて。第1回は高橋英樹さんと、群馬から来た大島さんっていう一般人のおじさん(笑)。
国崎 大島さん、3回くらい会ったことあるんですけど、何者なのか僕らも知らないんですよ。群馬在住でチャーハンが好きっていう情報しかなくて。その人と高橋英樹さんが「メンチ切り対決」するとか、まあ不思議なことやってます(笑)。先日は“アングラ芸人”の桐野安生さんを呼んで。普通の番組じゃありえない。
伊藤 ははは! 昔事務所が一緒で、ライブも一緒になったりしてて。
国崎 収録の後にご飯食べに行ったんですが、「この日を忘れない」って言ってました(笑)。
大物芸人が「国崎は昔の俺」
刺激を受けた人として、笑福亭鶴瓶と東野幸治の名前を挙げた。
伊藤 鶴瓶さんとは『ザ・ベストワン』でお会いして、ラジオにも呼んでいただいて。「国崎は昔の俺や!」って言ってました。僕のことは、「こういうツッコミのヤツは1度も見たことがない」って。
国崎 褒めてくれましたね。
伊藤 東野さんも「国崎は俺や!」って言ってたよね?
国崎 どういうことなんですかね(笑)。『マルコポロリ』とか、YouTubeの「東野vs」に呼んでもらえて。東野さんはバイタリティーがすごくて、「地下ライブを知りたい」ということで、ライブまでやってくれたんですよ。それで、「お前、俺と似とる」的な。「ボケちゃいけない場面でボケる衝動があるでしょう? それをこれからは抑えなきゃいけない」みたいなことを言われましたね。
伊藤 あと天竺鼠の川原(克己)さんも、だいぶ前からライブに呼んでくれていて。
国崎 川原さんは特殊で、芸人仲間というより友達感覚でずっと遊んできた人。それが最近ではテレビ局でバッタリ会ったりして、ビックリしますよね。刺激という意味では、ダイアンの津田(篤宏)さんも。TBSの「お笑いの日」の『お笑いプラスワンFES』でやったコラボコントが、この1年で1番楽しかったです。電車乗ってるときに、子どもが「♪ゴイゴイ、スーススー」って歌っていて、お母さんに「やめなさい!」って言われてて。ずっと歌ってるんだろうなと思った(笑)。芸人とのコラボって、ライブでは結構あるんですけど、テレビだとセットとか小道具とか豪華で驚きますよ。ここまでしてくれるのかって。
伊藤 『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日テレ系)の「D-1グランプリ」に出られたのも最高にうれしかったです。
国崎 憧れのダウンタウンさんの前でネタをできてね。まさか呼んでいただけるとは。
テレビでも活躍するようになり、見えてきた課題はあるのか。また、23年に向けての意気込みは。
伊藤 課題としては、いかに変えずに、自分たちのままでいけるかってことですかね。
国崎 僕ら、クイズ番組とか食レポをずっと断っているんですよ。「食べないけど大丈夫ですか?」って聞いて。ボケ続けたら成立しないから、迷惑をかけてしまうし。中途半端にならず、地下芸人のまま終わりたいですね。
伊藤 僕は地下芸人のままは嫌だな。スターになりたいですよ。地上はまだちょっとまぶしいけど。
国崎 ヘーンな人でいたいですね。しょうもないことができるのが地下の良さ。どれだけ変なことを言っても、「芸人が言ってることだから」にできる。マヂラブ(マヂカルラブリー)さんが20年に「M-1」で優勝してから、地下界隈が全部変わったんですよ。
伊藤 ガガガって扉をこじ開けてくれて。その隙間から今、地下芸人がブワーッって流れ込んでる。
国崎 永野さんとか、(ハリウッド)ザコシショウさんとか先駆者はいたんですが、マヂラブさんの台頭で、「こんなのでもいいんだ」っていう雰囲気になった。
伊藤 「笑いは自由だよ」って宣言した感じ。いい流れだと思いますし、23年も楽しくやっていきたいです。『がんばれ地上波!』も盛り上げていきたいし、地方のレギュラーとかもいいなってね。
国崎 地方の方って、大らかなんですよ。先日もグルメ番組で、いつものように「食べないけど大丈夫ですか?」って聞いたら、「大丈夫」って。そんなことあるんですか?って思った(笑)。
伊藤 普通怒られるよね。
国崎 とにかく、マイペースにこのまま進んでいきます。
(写真/藤本和史)