※日経エンタテインメント! 2023年1月号の記事を再構成
テレビ番組の人気が、リアルタイムの視聴率だけでは測れなくなってきて久しい。そんななか、新たな輝き方で2022年に存在感を示した番組の1つが、TBSの『ラヴィット!』(月~金曜8時)だろう。21年の春に「ニュースなし、日本でいちばん明るい朝番組」というコンセプトで番組がスタートし、約1年9カ月がたった。この間、見取り図やアインシュタインといったレギュラーメンバーのロケコーナーのブラッシュアップはもちろん、出演者がテーマに沿ったお気に入りを紹介する、当初15分程度だったオープニングトークがどんどん長尺化し、Twitterで応募する視聴者プレゼントで必要なハッシュタグのキーワードが連日トレンド入りするなど、独特な進化を遂げてきた。『ラヴィット!』が視聴者の心をつかみはじめたのは、番組を仕切るMCの川島明の手腕によるところも大きく、川島は“新世代MC”の筆頭として立ち位置を確立した。「視聴習慣はなかなか変わるものではない」と、朝の帯の生放送バラエティに対して厳しい見方もあったなかで、上昇気流に乗れたのはなぜなのか。川島自身に振り返ってもらった。[※取材は2022年11月上旬]
今、本当に楽しんでやれています。1年目の最初は全く分からなくて、スタッフさんも含めて「どこに向かうのかな?」という感じで。守りに入りすぎたときもあったし、ちょっと行きすぎたりもしたし。逆風はスタッフさんのほうが感じていたと思いますが、完全にバラエティとして見てもらえるように、「朝なのにこんなことやってる」って言われるのは早く取っ払いたかったですね。
スタッフさんもお笑いが大好きなので、賞レースで「おもろかったな」っていう人を実験的に呼んでみたり、レギュラー陣のオススメで若手芸人が出られたり。『ラヴィット!』が初めての生放送だというタレントさんが登場する機会も多くて、ライブシーンとテレビの架け橋みたいなことになっているのはいいなと思ってます。
だて様&さっくんの変化
今は乃木坂46のやんちゃん(金川紗耶)と、AKB48のゆいゆい(小栗有以)が出演中ですが[※取材は2022年11月上旬]、スタジオでは約3カ月の期間限定でアイドルの子たちも頑張ってくれています。普段は団体で活動しているところ、いきなり1人で、しかも他業種の人ばかりとなると難しいところもあるはずですが、結局なじんで、絶対みんな爪痕を残していくのは「さすがやな」って。
21年の10月から出てくれているSnow Manのだて様(宮舘涼太)とさっくん(佐久間大介)は、すごく変わりました。最初はSnow Manの1人っていう感じだったのが、最近はもう、宮舘涼太と佐久間大介という個人で来てくれている。心を切り替えて、芸人を引っ張るぐらいにボケてくれるから、こちらにゆだねて甘えてもらってる感じもして、MCとしてめちゃくちゃうれしいんですよね。
「ぼる塾の自由時間」や「ニューヨーク不動産」など、芸人によるコーナーもそれぞれ好評だ。
どの企画も好きなんですが、「ニューヨーク不動産」は嶋佐(和也)がマジで引っ越しましたからね。今は新居を探してる芸人が並んでる状態。でも申し訳ないんですが、正統派の『王様のブランチ』みたいにはいかなくて、物件の情報がちょっと少ない(笑)。スタッフさんもニューヨークもよこしまな遊び心が多いというか、パチンコのリーチの演出を入れたり、生放送で引っ越すかどうかの決断を迫ったり、ノリは“悪魔超人”(マンガ『キン肉マン』に登場する冷血・冷酷な悪の勢力)みたいで(笑)。まぁでも、男性ブランコの平井(まさあき)とか、インディアンスの田渕(章裕)とか、新居を決めたヤツがブレイクしていたりと非常に縁起のいいコーナーに成長しました。
視聴者プレゼントの応募キーワードは、途中から生まれたんですよ。「プレゼントするんやったら、ついでにキーワードも設定したら?」みたいなことで。連日トレンド入りするようになったきっかけは、相席スタートの山添(寛)君です。「半年で打ち切り」とか、変なネットニュースが出回っているときに、「ラヴィット! 涙の最終回」っていうのを出したんですよ。妙にリアルな時期だったので、火がつきましたよね(笑)。スタッフさんがピリッとしたのを覚えてます。あんなに午前中のTwitterが動くんだっていうのは、僕も想像していませんでした。
番組の転機になったのは、21年10月に放送された『水曜日のダウンタウン』とのコラボ企画。千原ジュニアによる「女性ゲストを大喜利芸人軍団が遠隔操作すれば、レギュラーメンバーより笑い取れる説」を検証したドッキリで、タレントのあのが『ラヴィット!』に送り込まれ、野性爆弾のくっきー!や霜降り明星の粗品たちの指令でボケ回答を連発。翌週の『水ダウ』で真相を放送するという手の込んだドッキリだった。後日TVerで「答え合わせ配信」もされ、“神回”という反響を得た。
影響力ありましたね。体感的に最大風速。ああいうドッキリって、架空の番組を設定したり、収録でやるのが普通ですけど、先に生放送であのちゃんの答えを見せて、ネットがザワザワする状態を作れたのはすごいと思いました。僕を含めて、『ラヴィット!』の出演者全員が仕掛けを知らなかったのも良かったなって。ジュニアさんを筆頭に、笑い飯の西田(幸治)さんとか、あれだけのメンバーが裏にいたなんて。「『ラヴィット!』やったらええやろ」っていう、ちょうどいいなめられ方をされてたっていうのが、結果的にすごくいい方向に転びました(笑)。
番組を休んで俯瞰できた
自身では、2月に新型コロナに感染して番組を休んだことも、1度立ち止まって考えるいいきっかけになったという。
僕もアナウンサーの田村(真子)さんも出られなくなってしまって。そんなときに、(田村)淳さんや東野(幸治)さん、藤井(隆)さん、小杉(竜一)さんやタカアンドトシのトシさんといった方々が、「『ラヴィット!』だったらやりたい」と言ってくださったことが本当に励みになりました。プラス、レギュラーメンバーが「川島さんおらん間は番組を守る」って感じでやってくれて、なんかもう1ランク上に、番組が新しく生まれ変わった感じがしましたね。
それまで真ん中にいたので俯瞰できていなかったんですが、寝室から『ラヴィット!』を見たときにすごく楽しくて。意外と医療従事者の方にも反響はいただいていたんです。見ても見なくてもいい、明るいことをやっている番組というので、BGM的な使い方をされてる方もいると聞いていて、重たいニュースは見たくないなか、身をもって納得しました。
1回冷静になれたのと、「早う治して『ラヴィット!』出たい」という気持ちになれて、復帰したときもみんなに「おかえり」的なことを言ってもらえて、身が引き締まったというか。こちらが「ヤバイ」と思うぐらいに、先輩方が盛り上げてバトンをつないでくれて、なんか「違うクラスの先生が助けに来てくれた」みたいな“学校感”がありましたね。他のバラエティだったら味わえない感覚だと思いました。
芸人としてのキャリアとしても、『ラヴィット!』に携われたことは貴重だと語る。
最初は世間の風当たりも強かったし、他の番組のライバルにもなれなかったんですよね。でも、爆笑問題の太田(光)さんとかいろんな先輩方に「絶対大丈夫だから」とか、「今だけしんどいけど頑張りや」とか声を掛けていただいて。なんだか、みんなで飼ってるウサギみたいやったんですよ。他の番組でも名前を出してくれたり、「続けられたらいいね」みたいに優しく言ってくれて。
そうやって始まりましたけど、22年は番組の浸透を感じられた年でした。地方に行ったときに、おばあちゃんが指で「L」を作る“ラヴィットポーズ”をしてくれたり、この間は山形の温泉で、おじいちゃんが「あんた朝から偉いな」みたいな感じで温泉卵おごってくれたり。劇場でも、お客さんが番組のうちわを持っていたりして。
個人的には、早寝早起きになって、お酒の量もひかえてますんで、人間ドックの数値が良くなりました。あとは、お仕事をたくさんやらせていただいてありがたい一方、家族の時間が欲しくて、無理言って土日はほぼ休みにしてもらっているんです。改めて、「人間、やっぱ休まないとダメだったんだな」って実感してます。土日で1回素人に戻ったほうが、月曜からが楽しいし、インプットと家族といる時間は絶対必要だなって。
朝早いのも相乗効果があって、これまでやったら「朝10時からの収録か、ボケられるかな?」という感じだったのが、今はもう、10時には脳がフル回転で、その状態でラジオに入れたり。あとは、MCの仕事が増えたのも『ラヴィット!』のおかげです。
同時に、他の方がMCを務める番組に行くことも、実は増やしているんですよ。(明石家)さんま師匠の番組とか、今田(耕司)さんとか、爆笑問題さんとか。「MCの技術がやっぱりすごいな。僕やったらできへんな」とか、もらう刺激がまた変わってきて。
23年も楽しい番組を届けていきたいです。今って、いい意味でテレビだけじゃなくなって、それは追い風だなと。僕らが子どもの頃は、「テレビのゴールデンでMCや!」とかだったけど、YouTubeもTikTokも、ラジオも劇場もあって、好きなことをやりやすくなったのはいいと思うんですよね。お笑いに限らず、YouTuberだったり、大道芸の人だったり、ゲーマーの方やアーティストさんなど、魅力的な方々を紹介できたら。『ラヴィット!』という場が、ジャンルの垣根なく集まれるサービスエリアみたいになれたらいいなと思っています。
(写真/藤本和史)