※日経エンタテインメント! 2023年1月号の記事を再構成

生活の中にすっかり定着した感のある定額制動画配信サービス(SVOD)。2022年を振り返ると、社会現象になるような新作は登場しなかったが、ディズニープラスの躍進、日本オリジナルドラマの増加、映画館との連動など新たな動きも見えてきた。

 新型コロナウイルス禍にあって、飛躍的な伸びを見せてきた定額制動画配信。エンタテイメント業界向けのデータ×デジタルマーケティングサービスを提供するGEM Partnersの調査によると、2022年は市場の成長も鈍化してきたが、それでも利用率は微増している。日本にもSVODは定着したと言っていいだろう(※1)

 サービス別の利用状況を見ると、Prime Videoが圧倒的な数を占め、コロナ禍で急激にユーザー数を伸ばしたNetflixが続いている。この2強にHulu、U-NEXT、ディズニープラス、DAZN、dアニメストアが続く(※2)

 全体的な市場が落ち着いてきたなか、特に成長が顕著なのがディズニープラスだ。要因の1つとして、21年11月に新たなブランド「スター」がスタートしたことも大きい。これまでのブランドに加えて、FOX系の映画作品や国内アニメ、海外ドラマなどコンテンツ数も増加。22年9月にはサービス利用率が3位まで上がってきた。

※1「動画配信/放送/ビデオソフト市場 ユーザー分析レポート(2022年11月調査版)」より
※2「定額制動画配信サービス ブランド・ロイヤリティ調査 11月号」より いずれもGEM Partners調べ

巨額のオリジナル大作も

 次にどんな作品が見られたか。GEM Partnersは毎月、約7000人を対象にSVODで視聴したコンテンツ名を聞く調査を行っているが、22年の年間ランキングを見ると、上位にはアニメ関連のタイトルが並ぶ。トップ10の中で、実に9作品がアニメ化作品があるタイトルになっている。アニメ関連は複数の配信サービスで見られる“全方位外交”のものも多い。過去に遡ることも簡単にできる利便性もあるため、「アニメは配信で見る」という人も増えているのだろう。

 総合の視聴数1位になったのは『SPY×FAMILY』。2位には「遊郭編」が22年の年頭に放送された『鬼滅の刃』、3位には4月に映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』が公開された『名探偵コナン』が入り、『ONE PIECE』『進撃の巨人』と続く。すでに多くのファンを持つ、歴史の長い人気アニメを抑えて、22年配信開始にもかかわらずトップに立った『SPY×FAMILY』が、22年を代表するヒット作だったことは間違いないだろう。

 同調査の配信オリジナル作品ランキング(右)に目を転じると、バラエティの『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』が1位。3位に『イカゲーム』、4位に『愛の不時着』と、ここ数年、SVODで話題となってきた作品が今も多くの人に見られていることが分かる。

 このランキングで2位に入ったのが『ロード・オブ・ザ・リング』。これは9月から配信が始まったPrime Videoの『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』の影響だろう。テレビドラマとしては史上最高額の製作費をかけたと報じられている、まさに巨大グローバルIT企業の底力を見せた本作は、9月の配信開始日には全世界で2500万人以上の視聴者を獲得。日本国内でも、宣伝プロモーションを効果的に行い、その魅力を従来の『指輪物語』ファン以外にも伝えてヒットにつなげている。

 これまでの人気作が上位に入ったNetflixで22年に話題になったのは『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』『39歳』『シスターズ』といった韓国ドラマ。日本オリジナルでは『金魚妻』『浅草キッド』などがランキングに入った。

 22年も成長を続けてきたディズニープラスでは『オビ=ワン・ケノービ』と『ボバ・フェット』という「スター・ウォーズ」シリーズからのスピンオフ作品、そして「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の1作である『シー・ハルク:ザ・アトーニー』がランクインした。22年に力を入れ始めた韓国ドラマや日本オリジナルドラマはまだランキングには入っていないが、23年の動向が注目される。

映画館と配信の相乗効果

 配信の新たな可能性としては、22年は映画館との連動が目立った。『名探偵コナン』は、ランキングの推移を見ると、22年1月には月間10位だったが、映画館で『ハロウィンの花嫁』が公開された4月には月間1位に。『スパイダーマン』も同様の動きを見せた。22年、洋画最大のヒットとなった、『トップガン マーヴェリック』では、新作を見た人たちが映画館での感動や、その持続感を求めて、配信で『トップガン』を視聴し、再び映画館に向かうという“追いトップガン”現象を作った。

 映画館のイベント感と、「いつでも何度でも見られる」SVODならではの強みが相乗効果を呼ぶ事例が生まれたことは、今後のエンタ界の起爆剤につながるかもしれない。23年はそのあたりも注目していきたい。

出典:GEM Partnersによる定額制動画配信サービス コンテンツ別調査 調査対象期間:2022年1月1日~2022年11月11日実査日:2022年1月8日~2022年11月12日の毎週土曜日 対象サービス:ABEMAプレミアム、Amazonプライム・ビデオ、Apple TV+、dTV、dアニメストア、FOD、Hulu、J:COMオンデマンド、Netflix、Paravi、Rakuten TV、SPOOX、TELASA、U-NEXT、アニメ放題、ディズニープラス、バンダイチャンネル、ひかりTVビデオサービス 調査方法:インターネットアンケート 調査対象:日本在住の15~69歳の男女 回答者数:各回 約7,000人 数値重みづけ:総務省発表の人口統計を参考に回答者を性年代別に重みづけ 集計方法:視聴したコンテンツについては自由回答方式で聴取。これをGEM Partners開発によるエンタメコンテンツ辞書を用いて名寄せ・集計を実施。コンテンツごとの視聴したシーズン数やエピソード数等は区別せず、一部でも観たと回答した人を視聴者としてカウント。また、劇場/テレビ版や海外/国内版も同一コンテンツとしてカウント(一部例外あり)。複数回観ても1カウントとしている。同じタイトルでのアニメ版・実写版、あるいは同じタイトルの別作品の区別はつかない。
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