※日経エンタテインメント! 2023年1月号の記事を再構成
2022年の映画を振り返ると興行収入ランキングの1位、2位、4位をアニメ映画が占めたほか、トップ20以内にアニメ映画が9作ランクインして強さを見せつけた。コロナ禍で公開延期が続いていた洋画は通常に戻り、ヒット作が相次いだ。緊急事態宣言の発令もなく、映画館が通常営業に戻った2022年。TOHOシネマズなどを傘下に持つ東宝が発表した、系列グループの映画館の月間興行収入は、1月~10月の累計で前年比136.9%。11月には大ヒットが期待できる新海誠監督の新作『すずめの戸締まり』も公開され、東宝以外の映画館も同じように好調に推移していれば、22年の年間興収は前年を上回る可能性が高い。
22年の興行収入ランキングを見ると、ひと際目立つのがアニメ映画だ。1位『ONE PIECE FILM RED』、2位『劇場版 呪術廻戦0』、4位『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』と上位を占めたほか、トップ20以内に邦画アニメが7作ランクイン。洋画アニメ『ミニオンズ フィーバー』『SING/シング:ネクストステージ』を合わせると9作にのぼる。
『ONE PIECE FILM RED』は、これまでシリーズ最高興収だった『ONE PIECE FILM Z』(68.7億円/12年)を100億円以上上回る記録を達成。『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』も、ハロウィンシーズンに合わせた再上映の興収を上乗せして、『紺青の拳(フィスト)』(93.7億円/19年)を上回る最高記録を更新した。
この2作と『劇場版 呪術廻戦0』のシネコンでの上映回数は、通常の作品で1日5回程度のところ、10回以上が当たり前。15回を超えるシネコンも多くあったほどだ。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(20年)や『シン・エヴァンゲリヲン劇場版』(21年)などの大ヒットを後押しした“上映回数大幅増作戦”が見られた。
シリーズ物のアニメ作品が全て好調かと言えば、そうでもない。年々興収が伸び悩んでいる印象なのが『ドラえもん』。19年公開『のび太の月面探査記』が50.2億円、20年公開『のび太の新恐竜』が33.5億円、22年の『のび太の宇宙小戦争 2021』は27億円(16位)。
シリーズの勢いが鈍ったのは『ミニオンズ』にも当てはまる。ミニオンが登場する作品は『怪盗グルーの月泥棒 3D』(10年)12億円、『怪盗グルーのミニオン危機一発』(13年)25億円、『ミニオンズ』(15年)52.1億円、『怪盗グルーのミニオン大脱走』(17年)73.1億円と右肩上がりで興収を伸ばしてきたが、『ミニオンズ フィーバー』(9位)は44億円と、初めてダウンした。
ハリウッドスターが続々来日
映画ランキングでは洋画の復調も目を見張る。21年は『ワイルドスピード/ジェットブレイク』(36.7億円)が洋画で唯一興収30億円を超えた作品だったが、22年は134億円をあげた3位『トップガン マーヴェリック』を筆頭に、実写4本、アニメ2本の計6本が30億円を超えた。
20年、21年には止まっていたハリウッドスターの来日も復活。7位『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』でエディ・レッドメイン、『トップガン マーヴェリック』でトム・クルーズ、5位『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』でブライス・ダラス・ハワード、『ブレット・トレイン』でブラッド・ピットなどが来日し、洋画の盛り上げにひと役買った。
映画ランキングに入った邦画実写では、人気マンガとテレビドラマの映画化が目立つ。人気マンガの映画化2作目『キングダム2 遥かなる大地へ』(6位)、テレビドラマの映画化『99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE』(15位)、『あなたの番です 劇場版』(20位)、テレビドラマの映画化から始まり映画単独作となった『コンフィデンスマンJP 英雄編』(13位)、『沈黙のパレード』(13位)と5本がランキングに入った。
『シン・ゴジラ』の庵野秀明と樋口真嗣が再びタッグを組んだ『シン・ウルトラマン』(8位)は、ウルトラマンシリーズを知らない世代でも楽しめるリブート作品として話題を集めた。公開3日間の興収は10億円弱で、最終興収は44億円を突破。
米アカデミー賞で快進撃
ランキング以外のトピックとして注目したいのが、『ドライブ・マイ・カー』の快進撃。21年8月20日に公開されたが、22年に入ってからもロングラン上映が続いた。2月に発表された米アカデミー賞ノミネートでは作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門で候補に上がった。日本映画が作品賞にノミネートされるのは史上初、監督賞の候補となるのは『乱』の黒澤明監督以来、36年ぶりの快挙だ。ノミネート後に再上映・拡大公開となり再び集客が上向きに。最終的に興収は13億円を超え、独立系配給会社の作品としては異例のヒットとなった。
そのアカデミー賞で作品賞を受賞したのは、『コーダ あいのうた』。日本ではギャガの配給で劇場公開されたが、日本以外ではAppleが世界配給権を獲得。多くの国では「Apple TV+」で配信された作品だ。動画配信サービスの作品がアカデミー賞を制したのは初めてのことで、アカデミー賞は転機を迎えた。映画レビューサービス「Filmarks」による観客満足度ランキングでは5位だった。
世界3大映画祭では日本人監督が躍動した。ベルリン映画祭では『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が、コンペティション部門の審査員に加わった。カンヌ映画祭では是枝裕和監督の韓国映画『ベイビー・ブローカー』がコンペティション部門に選出され、ソン・ガンホが主演男優賞を受賞。ベネチア映画祭では深田晃司監督『LOVE LIFE』がコンペティション部門に選出された。
年間満足度で目立つ洋画
Filmarksの観客満足度ランキングでは、1位『トップガン マーヴェリック』、2位『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と大作を筆頭に、トップ5を洋画が占めた。3位に入ったのは、『バーフバリ』シリーズのS・S・ラージャマウリ監督のインド映画『RRR』。『バーフバリ』シリーズでも見られた、人間離れした力を見せるアクションシーンの数々が高い満足度を得たようだ。4位『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』は、『アバター』(09年)の3D映像を最新の4K HDR映像にリマスターした作品。12月16日の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』公開を前に再上映した。17位にはウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星 4Kレストア版』もランクインしている。オリジナルは1994年制作。こうしたリバイバル系作品が話題になったことも、22年の特徴と言えるだろう。