10年で市場が10分の1以下に、本業消失の危機乗り越える
富士フイルムは、その社名の通り写真用フィルム事業を主軸とする企業だった。だが過去形で記したようにそれは20世紀までの話。フィルム事業はかつて同社の売上高の6割、利益の3分の2を稼ぎ出していたが、その需要は2000年をピークに急減。06年には半減し、10年には10分の1規模にまで縮小した(図37)。
世界最大のフィルムメーカー、米イーストマン・コダックが破綻に至るほどの本業消失の窮地に立たされながらも、富士フイルムは事業ドメインを柔軟に変容させて成長を続けている。フィルムや印画紙など従来の写真関連ビジネスで培った技術を転用・応用し、液晶用フィルムのような成長中の市場を開拓したり、X線フィルムで接点のあった医療向けにレーザー内視鏡を提供したり、化粧品・サプリメント事業に進出したりと、既存技術を棚卸ししたうえで事業ドメインを再構築したことが、富士フイルム2.0ともいえるトランスフォームに成功した要因だ。
もっとも、既存技術を転用・応用して商品・サービス化できることと、それが実際に売れることとはイコールではない。特に化粧品のような既存の大手各社がしのぎを削る激戦区は、富士フイルムという知名度があろうともそれだけで買い続けてくれるような容易なマーケットではない。
既存顧客に注力して伸びた「アスタリフト」
同社のスキンケアブランド「アスタリフト」シリーズは、07年の発売以降、松田聖子と中島みゆきが登場するテレビCMなどが話題になり、売り上げを伸ばしていったものの、リピーターを維持・育成するよりも新規顧客拡大に注力した結果、多くの離反が起きていた。
そこで11年、アスタリフトを管轄するライフサイエンス事業部でEC事業見直しに着手。まずは購入者の熱量が最も高い初回購入時の商品が届いたタイミングで、購入のお礼と「これからパートナーとしてアスタリフトが寄り添っていく」旨のメッセージを送信するところからスタート。タイミングを見計らって2回目の継続購入を促進するメールを打つなど、購入時間・曜日といった情報を基に約300のプログラムを用意して、ワントゥワンマーケティングを展開した。結果、既存顧客の維持・育成への注力が奏功し、2年で売り上げを5倍に伸ばす成果を上げた。
こうした成功例を部門横断的に共有して展開すべく、13年にe戦略推進室(現デジタルマーケティング戦略推進室)の人員体制などを強化。デジタルマーケティングの取り組みがそれぞれの事業領域で加速した。
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