上海視察を終えた私は19年4月、藤井氏が勤務するビービット(東京・千代田)に入社しました。同社の主なサービスは、UXイノベーションに向けたコンサルティングと、分析/企画スキル向上・デジタル人材育成に向けたクラウドサービスである「USERGRAM」が2本柱で、私は後者のUSERGRAMに携わりました。

 先に挙げた自動車保険や禁煙治療アプリで、「リスキーな状況に差し掛かるとアラートを出す」と記しましたが、アフターデジタルがビジネスにもたらす変化として、こうした「状況ターゲティング」が可能になったことが非常に大きいといえます。性・年代や購入履歴、そこから推測される嗜好といった属性ターゲティングの「次」が現れたのです。

 例えば、東京在住のAさんとBさんが神戸に出かけるとします。Aさんが旅行予約サイト上で、神戸以外に京都、姫路、那智勝浦などで宿を検索しているとしたら、神戸が主目的ではなく広範囲で観光を考えていることが推察されます。一方、Bさんが神戸市内のビジネスホテルを検索しているなら、出張先の宿を探している可能性が高いでしょう。

 こうした検討行動が把握できれば、観光目的と思われるAさんには、神戸に向かう直前に、神戸市立王子動物園、六甲ケーブル、マリンピア神戸などの情報を提供するとニーズに合いそうです。出張目的のBさんには、神戸市内の居酒屋情報やクーポンを提供すると喜ばれそうです。

 神戸に向かうという行動は同じでも、AさんとBさんの動機は異なります。ビジネスなのか、観光なのか。観光なら家族旅行か友人との旅か。出張は1泊か週末も含むか……。状況によって行動は変わってきます。そうした状況を踏まえて施策を打つことが、状況ターゲティングです。以下、いくつかの事例を紹介します。

事例1:アパレル企業におけるメール配信時間変更

 あるアパレルECの主顧客層は専業主婦で、メールマガジンを昼に配信していました。一定の反応はあったものの、より効果を高めたいことから、メール受信者の行動観察をしました。観察前は、「主婦層はお昼の時間帯がメールを見るのに最適」と考えていましたが、意外な事実が判明しました。

 メールは送信直後のお昼に開封されていたのですが、そこからのサイト流入は昼よりむしろ夜の方が多いことが分かりました。日中は慌ただしく、じっくりサイトを見てもらえるのは夜と考えを改め、配信時間を19時に変更したところ、セッション数、およびメルマガ経由の売り上げが共に3倍にアップしました。このように思い込みとのギャップを発見することが大きな改善につながります。

事例2:イベント施設運営企業におけるメール配信先の変更

 イベント施設運営企業の事例です。この企業が運営する施設は、公演内容によってチケットの売れ行きに差があり、とあるバレエ公演のチケット販売で苦戦していました。同公演の案内メールは、バレエ・舞踊公演の購入実績客を中心に送っていました。

 何かよい打ち手はないかと、バレエ公演購入客のWeb上での閲覧行動を観察したところ、映画作品Aの詳細ページを頻繁に閲覧していました。調べたところ、映画Aとバレエ公演にはいくつかの共通点があることが見えてきました。この発見から、映画Aのページ閲覧者にバレエ公演の案内メールを配信したところ、開封率は以前の1.8倍、購入率は約9倍という結果をたたき出しました。検討行動の観察によってチャンスポイントを発見し、活用することができた事例です。

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