顧客の離反とランクダウンによって売り上げのかなりの比率が消滅していた状態から、顧客勘定PDCAサイクルのフレームワークを実践し、セグメント別、ステータス別に顧客維持施策、育成施策を打った結果、劇的に改善できたのは前述の通りです。

 ただ、越えられなかった1つの壁がありました。離反客およびランクダウン客による逸失額が売り上げに占める比率を何とか減らそうと努めましたが、改善できたのは着手した2011年度から15年度まで。さまざまな施策を考えては実行したことで、16~18年度も全体の売り上げは順調に伸長し、維持数、ランクアップ数、新規顧客獲得数も絶対値は伸びましたが、離反&ランクダウンによる逸失額の売上高比は、目標のラインで一進一退が続き、頭打ちの状態でした。

AIって大したことない?

 そんな課題を抱えていた18年度のある日、コンサルティング会社からAIツールの提案を受けました。「課題があればAIを活用して解析します」ということだったので、「顧客の離反、ランクダウンを抑止したい」「離反しそうな顧客の特徴、維持できそうな顧客の特徴が分かるとありがたい」と伝え、分析をお願いしてみました。

 顧客ランク策定のメイン指標に用いていたRFM分類の実データを渡し、何回かの質疑応答を経て、レポートをもらうまでに1カ月ほど要したでしょうか。結果は……

  • 離反しそうな顧客の特徴:RFMが相対的に低い顧客は離反する可能性が高い
  • 維持できそうな顧客の特徴:RFMが相対的に高い顧客は維持できる可能性が高い

 正直、私は椅子から転げ落ちそうになりました。「当たり前じゃないか!」。この結果を聞いて、私はさらに悩むことになりました。「AIを活用しても予測できないのか」「AIって案外大したことないのかも」「他に何か手立てはないものか」……。越えられない壁がさらに高く感じました。

顧客データが圧倒的に足りない

 そんな矢先、マーケティング業界のカンファレンス「アドテック2018」で、ヤフー川辺健太郎社長の講演「データドリブンの本質とマーケティングのこれから」を聴講する機会がありました。

 「ユーザーがサービスを利用し、データが蓄積され、それをAIで解析することで、人間が気づき得なかった気づきを得る。それをサービスに反映すると、ユーザーの満足度が向上して利用の度合いが高まり、さらに改善が進む」

 「サービスを設計してデータを蓄積するというより、むしろデータを蓄積するためのサービスを設計するべきである」

 この2フレーズが今も強く印象に残っています。AIが悪いわけではなかったのです。問題は、顧客のデータが圧倒的に足りていないことだと気づいた瞬間でした。

 客単価や客数、購入行動といったデータを収集して、それなりに情報化を進めていたつもりでしたが、購入の前段階の「検討」行動を見ることや、顧客同士の接触とその影響について考えることは、ほぼ未着手でした。

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